番外編2 バレンタイン大作戦
今日はバレンタインと言うことで、特別編です。
1
「バレンタインですか?」
「そうだよ。恋する女の子が男の子に愛を伝える日」
私は学校の休憩時間、クラスメイトの茜ちゃんとお話をしていました。
愛を伝える日。
なんて素敵な日があるのでしょうか。
これは
「そんな日があるんですね。知りませんでした」
私はまだまだ知らないことがあるようです。
「えっ。バレンタインを知らない!?
この日本に住んでてそんなことある?
「えっと、その」
うっ、私が千羽鶴ということは茜ちゃんには秘密なのでした。
どうやって誤魔化せば……
「言いたくなさそうだから聞かないであげる。
それにいい女に秘密はつきものだからね」
茜ちゃんが深く追求してこないようで少しホッとします。
茜ちゃんの優しさでしょうか。
「そんなことよりもバレンタインのためにチョコを作りましょう」
茜ちゃんはをズイッと体を近づけてきます
「チョコを作る?」
「そう、手作りチョコが喜ばれるの。
今週の日曜日に一緒に作りましょう」
「では、幸喜さんも一緒に――」
「ダメよ。女の子だけで作るの。男の子には内緒でね」
「そういうものですか?」
「そういうものなのよ」
私は、バレンタインについて何も知りません
ここは茜ちゃんに従いましょう。
「なあ、ちょっといいか」
幸喜さんが話しかけてきました。
なにかあったんでしょうか?
「ちょっと、
「そういうの、普通渡す本人のいない所でするもんだろうが?」
「聞かなければいいわ」
「よく言うよ、有無を言わさず俺の膝の上に千鶴を座らせておいてさ」
そう言って、私の下にいる幸喜さんはため息をつきます。
幸喜さんの息が耳にかかってこそばゆく感じます。
変な声が出そう。
「仕方がないじゃない。千鶴ちゃんが離れないんだから」
「その理由は主にお前なの、分かってるか」
幸喜さんと茜ちゃんは相変わらず仲が悪いようで言い争いをしています。
二人とも大切な人なので仲よくしてもらいたいのですが、なかなか難しそうです。
「まあいいわ。
もともと内緒にできるとは思ってないしね。
さすがに一つ屋根の下で内緒で直作るのだけは無理だし」
「ちょっと待て、もしかしてウチで作る気か?
別に
幸喜さんがとても嫌がっていました。
どうしても茜ちゃんに来てほしくないみたいです。
「私、千鶴ちゃんに聞いて知ってるのよ。
家族そろって料理好きで、たくさん料理器具あるって」
「お前に使わせる道具はない」
「ウチはこだわる人いないから、フライパンと包丁だけなのよ。
それとも新しく買えと」
「いいじゃん、買えば」
「ケチ!」
二人のにらみ合いが続きます。
このままでは大変な事になってしまうかもしれません。
「あの、幸喜さん。
私は茜ちゃんと一緒にウチで作りたいです。ダメですか?」
「……分かったよ」
私の言葉を聞いて、幸喜さんが
「万丈君って、なんだかんだ千鶴ちゃんに弱いわよね」
「うるさい」
こうして、茜ちゃんとチョコを作ることになったのでした。
2
そして日曜日の朝。
茜ちゃんは我が家にやってきました。
キッチンには私と茜ちゃんの二人だけ。
幸喜さんはいません。
今日は幸喜さんにはキッチンには来ないように言ってあります。
心苦しいですが、全ては幸喜さんにチョコを渡すため。
幸喜さん、待っていてください。
あなたのために最高のバレンタインチョコを作って見せます。
「千鶴ちゃん、ありがとう。一度こうやってチョコを手作りして見たかったのよ」
「あれ茜ちゃん、作ったことが無いんですか?」
「うん、ないの。
仲がいい子にお菓子作る子いなくて。
かといって、わざわざ作る理由も無かったし、千鶴ちゃんが料理が好きでよかったわ」
「はい!幸喜さんにおいしいものを食べてもらいたいので!」
「相変わらずラブラブなのね。
私も恋人が欲しい」
「茜ちゃんも愛を伝えたい人がいるから作るのでは?」
愛を伝える日、と聞いていたのですが、記憶違いでしょうか?
「あー、自分用のチョコよ。
自分自身に愛を伝えるため、かな」
「おおー、そう言うのもあるんですね」
どうやらまだまだ知らないことがあるようです。
「でなに作るか決まってるの?」
「これです」
私は茜ちゃんに、料理をする人の強い味方『今日の料理 2月号』を見せます。
「このページです」
「なるほど。チョコレートケーキね」
「はい。ここに書いてある通り作れば、きっとおいしく出来ます」
この本に書かれている通り作れば、なんでもおいしく作ることが出来ます。
こんな素晴らしいことを教えてくれるなんて、本の作者はなんていい人なんでしょう。
「それで、最初は何をするの」
「はい、まずはチョコを溶かします。
それで、茜ちゃんに聞きたいんですけど、
茜ちゃんは私をまじまじ見たあと、肩にポンと手を乗せました。
「……千鶴ちゃん、なんで私が知っていると思ったの?」
「茜ちゃんはバレンタインに詳しいので、てっきりご存じかと」
「料理に関しては、千鶴ちゃんが詳しいわ」
「それではケーキが作れませんね……
幸喜さんを呼んで――」
「大丈夫、心強い助っ人がいるから。ちょっと待ってね」
茜ちゃんはそう言うと、スマートフォンを取り出しました。
「OK、G〇〇GLE 湯煎の仕方。
……これ見て、湯煎の動画よ。
千鶴ちゃんなら何してるか分かるでしょ」
「あっ、スマートフォンを使えばよかったんですね。
なるほど便利なものです」
「……千鶴ちゃんはテクノロジーをもっと活用したほうがいいわね」
こうして私たちは心強い助っ人を助けを借りて、見事ケーキを作り上げたのでした。
3
「幸喜さん、どうぞ。バレンタインチョコです」
私は
幸喜さんは一瞬ためらった後、受け取りました。
何か変なところがあったのでしょうか?
「あ、ありがとう。でもここで渡すの?」
「何か問題が?」
「いや、別に家でもよかったよね、と思って」
幸喜さんは今貰えるとは思ってなかったみたいです。
「でも、茜ちゃんが学校で渡すものだと言ってましたよ」
「またかよ。日高!」
「いいじゃん、渡す瞬間見たかったのよ。
ふふ、いいもん見せてもらいました。
ごちそうさま」
幸喜さんは茜ちゃんを睨みますが、『照れちゃって可愛い』と言って気にしていない様子でした。
「まあ、いいや。ほらこれ」
そう言うと幸喜さんからが袋に入ったたくさん入ったチョコレートをくれました。
「これは……チョコ?」
いつの間に買ったのでしょうか。
どうやら男性の方からももらえるようです。
……あれ、でも幸喜さんが学校で渡すものではないと、先ほど……
「ちょっと、万丈君。さすがにそれは無いんじゃないの?」
私が考え事をしていると、茜ちゃんが横から覗いてきました。
「さすがに、チ〇ルチョコは無いでしょう」
茜ちゃんが怒っています。
言われてみれば、私は頑張ったのに、幸喜さんからは
悲しくなってきました。
「違う違う。千鶴も泣きそうになるな。
これはお前がクラスメイトに配る分だ」
「私が……配る?」
どういう意味なのでしょうか。
「あー、忘れてたわ」
茜ちゃんは分かったようで納得していました。
「千鶴ちゃん、これはね、義理チョコよ」
「義理チョコ?」
「知り合いとか友達に義理で配る用のチョコよ」
「義理で……配る?」
また新しい情報が出てきました。
バレンタインはまだ知らないことがあるようです。
「まあ簡単に言えば、お付き合いで配るの」
「お付き合い、ですか?
と言うことは、幸喜さんの評価にも影響が……」
「そこまでたいそうなことでも無いけどね。
あとで説明するから、それを配ってらっしゃい」
「でも幸喜さん以外に愛を伝えるのは……」
「愛が無くても大丈夫だから」
「そういうものなんですか?」
「そういうものだよ」
「そうだ。私が一緒に行って、お手本見せるから安心して」
そう言われて私は茜ちゃんと一緒にチョコを配りに行きました。
茜ちゃんは『義理です。二人から』といってクラスメイトに渡していきました。
特に愛を伝える様子も無かったので、確かにお付き合いのためのチョコでした。
それでも皆さんとても喜んでくれました。
時折、茜ちゃんが言っていた『お返し』とは何でしょうか?
後で聞いてみましょう。
それと私にもチョコをくれる人がいました。
あまり話したことのない人からなので義理チョコなのですが、確かにこれはもらって嬉しいものでした。
義理で配るのも、みんなで幸せになるためなのでしょう。
バレンタイン、素晴らしい日です。
クラスの人に配り終えて幸喜さんの元へ戻ると、幸喜さんも何個かチョコをもらっていたようでした。
ですが私が戻ってきたことに気づくと、隠すようにカバンの中に入れてしまいました。
なぜ隠すのでしょうか?
後で聞いてみましょう。
幸喜さんはまるで今気づいたかのように、私に振り向きました。
「やっと戻ったか。
ああそうだ、千鶴。
俺のチョコは家で渡すからな」
それを聞いたとき、私の体に電撃が走りました。
そして気づけば、私は保健室で寝ていました。
あれ?
保健室の先生に聞くと、教室で倒れたので運ばれてきたそうです。
先生からは『チョコをもらう前に倒れて、運ばれてきたのは初めて』と笑われてしまいました。
とても恥ずかしいです。
先生はもう少し寝てるようにと私に言って、出て行かれました。
私は一人、静かな保健室に残されます。
考えるのは、幸喜さんのチョコの事。
私に愛を伝えるために用意してくれたチョコ。
私のためだけのチョコ。
幸喜さんはどんなチョコを用意してくれたのでしょうか?
チョコの事が楽しみで、幸喜さんが迎えに来るまで、私は一睡もできないのでした
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