第19話 ライバル登場?

<前回のあらすじ>


 幸喜こうきは、野球の部室で千鶴ちづる海斗かいとの三人で弁当を食べていると、海斗から3人の新入部員が入ったと言われる幸喜。

 だが入部理由が千鶴目当てだと聞いてしまう。

 面倒事の気配を感じ取った幸喜はそのまま帰ろうとしたが、待ち伏せされ部活に出ることになったのだった。




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 不服ながら、今日も俺は部活動に出ることになった。

 カイに連れられ部室の中に入ると、すでに新入部員の3人がいた。

 3人では広く感じた部室だが、6人入るとさすがに狭さを感じる。


「じゃあ、みんな揃ったから、練習する前に自己紹介をしよう」

 そう言ってカイは自己紹介をは始める。

 言葉には隠しきれない喜びが感じられる。

 理由はどうあれ、部員が増えたことが嬉しいんだろう。


「僕の名前は万丈ばんじょう海斗。

 野球部の部長、2年生。

 そこにいる幸喜は従弟です」

 簡単に自己紹介をすると、千鶴はパチパチ拍手し始めたので、俺たちもつられて拍手する。


 拍手がやむと、カイはこちらに目線を向けた。

 やれって事だろう。

 みんなの目線が俺に集まる。

 だがカイと違うのは、汚物を見るような目線をされることだ。

 俺が何をした?って聞くまでもないか。


「俺の名前は万丈幸喜。

 一年で、さっきも言ってたけどそこのカイ――海斗の従兄です」

 俺は簡単に自己紹介を終えたが、拍手してくれたのは千鶴とカイだけだった。

 他のやつはちゃんと聞いていたのかどうか怪しい。

 舌打ちする奴すらいる。

 あとで覚えとけ。


 目線を千鶴に回し、自己紹介を促す。

 千鶴が自己紹介を始めようとすると、3人の新入部員は殺気を収めて、背筋を伸ばした綺麗な姿勢になる

 現金な奴らだ。

「私の名前は万丈千鶴です。

 一年生で、マネージャーをしてます。

 幸喜さんの婚約者です」

 やつらは千鶴の自己紹介に聞き入り、ウンウンと頷いていた。

 その様子は若干キモイ。


「よろしくお願いします」

 千鶴が自己紹介を終えて、ニコっと笑うと、歓声が上がり拍手が巻き起こる。

 扱いが違いすぎる。

 仲よくできそうにないんだけど、今日からこいつらと練習するの?


「聞いて分かったと思うけど、ここには万丈ばんじょう性が3人います。

 だから名前で呼んでね」

 千鶴の自己紹介の後に、カイが補足を入れる。

 言われるまで気づかなかったが、確かに珍しい状況だった。

 ということは、こいつらに名前で呼ばれるのか……

 嫌いな奴に名前を呼ばれるのは嫌だなあ。


 ◇

 

「じゃあ、大木君から」

 やっと新入部員の自己紹介が始まる。

 早く終わらないかな。


 最初は大木と呼ばれた男子だった。

 名前の通り背が高くて、力もありそうだ。

 大きな大木、覚えやすい。


大木おおきです。

 2年生、野球はやったことない。

 えっとお願いします」


 まばらな拍手が起こる。

 もちろん、俺も拍手する。

 こいつらが嫌いだからって、同じようなことはしない。


 それにしても大木先輩は、見た目よりは気弱そうな印象を受ける。

 目当てであろう千鶴のことも睨むように見てたし、もしかしたら目つきが悪いだけかもしれない。

 あとで話してみよう。


 二人目。

 顔立ちは整っていてイケメンだが、体つきはひょろい。

「俺の名前は飛山とびやま

 一年生。

 野球経験はないけど、中学は陸上やってたから足は自信ある。

 よろしく」


 飛ぶように足が速い飛山。

 確かコイツ女子に手を出し過ぎて、女子から羽より軽い軽薄野郎と陰口をたたかれているやつだ。

 目当てはやはり千鶴のようで、飛山は千鶴に向かってウインクしている。

 気づかれてないけど。


  ◇ 


 ようやく三人目。

「俺の番だな」

 そういって三人目の男は一歩前に出た



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 三人目のお男は、俺に舌打ちした奴だ。

 髪を染めて金髪にしていて、制服も着崩していてthe不良と言う感じ。

 が、どことなく偽物っぽいというか、頑張って悪ぶろうとする印象がぬぐえない。

 もしや夏休みデビューのたぐいか?

 もう冬だけどな。


「俺は金田かねだ

 一年。

 野球は最近やってねえけど、素人よりはできる」


 

 金髪の金田ね……

 ん、一年生の金田?

 そういえば、クラスで今日隣のクラスで髪染めてきたやつがいるって話題になってな。

 確か名前はカネダとかカナダとか言ってたからこいつに間違いない。

 夏休みどころか、今日デビューかよ。

 そりゃ偽物臭いと思うわけだ。


 もしや千鶴に会うためだけに染めてきたのだろうか?

 その行動力は少しだけ尊敬する。

 絶対真似しないけどな。

 そんなことを思っていると、金田は俺に視線を向けた。

 考えてることがバレたか?


「万丈、お前のポジションは俺のものだ」

 金田はドスを聞かせた声で、睨みつける。

 バレたわけではなく、金田は俺のことが気に入らないだけらしい。

 どうやら喧嘩を売りたいらしいが、持ち合わせが無いので転売することにする。


「万丈?ああ、千鶴のことか。

 千鶴、呼んでるぞ」

「えっ、マネージャー志望だったんですか?

 えっと何も知らないので、教えてもらえればとても助かります」

 自分に振られるとは思わなかった千鶴はアタフタし始めた。

 喧嘩を他人に回すのは気が引けるが、千鶴が相手なら金田も暴言を吐かないだろう。

 これを機に人を睨むことはいけないという事を知ってほしい。


「あ、いや、違います。マネージャーじゃなくて、そっちの――」

 金田は慌てて否定する。

「えっ、そっちですか?」


 千鶴は、金田の視線が俺に向いていることに気づき、しばし熟考する。

 そして何かに気づきハッとした顔になったかと思えば、見る見るうちに顔が赤くなっていく。

「ままままさか、

 千鶴と金田とうじしゃの二人を除く全員が噴き出す。


「違う。俺は男となんて興味ない。だ、だれか誤解を解いて――」

 金田は必死になって否定する。

 不良のメッキは完全にはがれていた。

「うう、ここに来てライバルができるとは……」

 千鶴は俺たちに追い打ちをかけてくる。

 ゴメン、金田。

 お前を助けてやれそうにない。


「ですが、幸喜さんの隣は私のものです!誰にも渡しません!」

 ビシィという擬音が聞こえそうなほどきっぱり言い切る千鶴。

 あまりに決まりすぎて、誰も異論をはさむ余地は無い。


 先程の騒がしい空気とは打って変わって、部屋の中は静寂で満たされる。

 この場の支配者は千鶴だった。

 次はどうするのか、千鶴の言葉を待つ。


「では練習を始めましょう。どちらが幸喜さんの婚約者にふさわしいか、見せてあげます」

 そういって千鶴は部室から出て行った。


 お互い顔を見合わせた後、俺達は着替えるべきだということに思い至り、急いで着替え始めるのだった。

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