番外編1 大みそかのおせち

 番組の途中ですが、番外編です。



 本編の開始の時期は、執筆開始の時期と合わせて11月とし、現実時間とシンクロさせて書く予定でした。

 しかし作者の無計画さのせいで、想定より作中時間が進んでいません。

 時間がそこそこ進めばいろんなイベントをタイムリーにできてネタにも困らないと考えていたのですが、計画倒れでした。


 悩みましたが、例外的に時系列を無視し番外編と言った形で、時事ネタ・季節イベントをやっていきたいと思います。

 ソシャゲのイベントような感じでですね。


 では今直近のイベント、大みそかのエピソードです。

 お楽しみください。



           1


 私、万丈ばんじょう 千鶴ちづるは、幸喜さんを喜ばせるために、常に料理の本を読んで研究しています。

 幸喜さんは食べることが好きなので、こうした料理の研究は怠れないのです。

 また幸喜さんが望んだ時のために、怪獣の研究もぬかりありません。


 そうして大みそかを明日に控えた30日、今日もリビングで料理の本を読んで研究していました。

 幸喜さんはというと、お昼ご飯の後、私の隣でコタツに入ってお昼寝してました。


 私は明日作る予定の料理のページを読みたいのですが、どうしても幸喜さんを見てしまい、なかなか集中できません。

 幸喜さんの素敵な寝顔は罪作りです。


 そうやって一時間くらいすると、幸喜さんは起きて洗面所に顔を洗いに行かれました。

 残念やら安心したやら複雑な心境です。

 顔を洗ってさっぱりした幸喜さんは、私の対面に座りました。

 たしかにそちらの方が広いのですが、いつも私の隣に座って欲しいものです。


 私が催促すべきか悩んでいると、幸喜さんが先に声をかけてきました。

「何読んでいるんだ」

 私の持っている本を見て、幸喜さんが聞いてきます。

「これです」

 私は持っている本を幸喜さんに見せます。

 いま私が持っているのは今日の料理12月号レシピブックです。


「“半日でできる本格おせち”。おせち作るのか?」

 幸喜さんは今月号のキャッチコピーを読みます。

「はい。お正月と言えばおせちです」

「そうだけど、作れるのか?

 難しいイメージあるけど」

「大丈夫です。

 今読んでいますが、難しい工程はなさそうです」

 扱ったことがない食材がありますが大丈夫でしょう。


「買い出しに行こうと思うのですが、結構多そうなんです。

 手伝ってもらえませんか?」

「いいぞ」

 幸喜さんは悩む様子もなく了承してくれました。

 優しい。

 好き。



           2


 私たちは買い出しを終え、家に戻ってきました。

 買ってきた食材を冷蔵庫の中に入れていきます。


「結構な量になったな。量もそうだが、金額も。持っていたお金で足りてよかったよ」

「ですが買えなかったものもあります。全部作りたかったのですが……」


 私たちは、買い出しメモを作って、近所のスーパーに行いきました。

 ですが全ての食材を買うことが出来なかったのです。

 買えなかったものは、とお酒類。

 なので、とお酒を使う料理を断念しました。


 は、魚料理なので魚売り場を見回したけれど見当たらず。

 後で調べたところ、カタクチイワシの幼魚を乾燥させたもので、全然違うところを見てました。

 また田作たづくりという別名もあるそうで、そちらの名前で売ることもあるそうです。

 完全にリサーチ不足でした。


「これ、今日作るのか?」

「いえ、明日の大晦日に作ります。

 一つだけ前準備がありますが」

「何するんだ」

「黒豆を重曹(タンサン)を混ぜた水に漬け置きします。

 時間的に寝る前に漬けるのがいいでしょうね」


 その日の夜、黒豆に水につけてから就寝したのでした。



           3


 朝ご飯食べたら、早速おせち作りをします。

「俺は手伝わなくてもいいのか?」

「はい。確かに作業は多いのですが、本にはタイムスケジュールが書いてあるので、これを見てやれば問題ありません」

「至れり尽くせりだなあ。

 頑張れよ、楽しみにしてる」

 幸喜さんのエールを聞いて、体から力が湧き上がってきます。

 今の私に、出来ないことなどありません。


 買えなかった食材があるので、今回作る料理は次の7種類です。

 黒豆、さけの柚庵焼き、カステラ卵、きんとん(ブランデーを使うが、お菓子用のものを流用)、煮しめ、たたきごぼう、紅白なます


 おせちとは、これらの料理を半日掛けてつくる作業量の多いものです。

 全て初めて作るものですが、レシピに忠実に従えばなにも問題はありません。

 すべては幸喜さんの笑顔のために!



 なお料理を作る風景は、とてもなものなので、ここからはダイジェストでお送り致します。



「最初に黒豆を茹でましょう。時間は……五時間!?」


「柚庵焼きは、まず調味料を鍋で煮て漬け汁をつくる、と。

 調味料入れて、空いてるコンロで―そういえば、もう一つのコンロ壊れているんでした……。

 ……黒豆を下ろして、煮ましょう」


「カステラ卵は、フードプロセッサーでタラをかくはん?

 斬新ですね。

 そして卵を混ぜてフライパンで焼いて……。

 ……黒豆を下ろしましょう(2回目)」


「オーブンでいい感じに、きんとん用のサツマイモがホクホク。

 次は別の容器に調味料を混ぜて―え、砂糖170g!?

 きんとんって半分砂糖なんですか!?」


「調味料を混ぜました。

 調味料をフライパンで煮るので、黒豆をおろしましょうか(3回目)。」


「調味料とサツマイモを混ぜましたけど、まだ水気が多いようですね。

 もう一度フライパンで煮て水分を飛ばしましょうか。

 黒豆を下ろします(4回目)」


「やることが..やることが多い..!!」


「煮しめで煮るのはコンロを長時間使いますね……。

 あ、柚庵焼きも焼かないと……。

 黒豆が終わってから作りましょう(諦め)」


「たたきごぼうは、癒しです」


「紅白なますを器に盛って、完成!」

 私はすべての行程を終え一息つきます。

 なお片づけは考慮しないものとします。


「千鶴、できたか?」

 振り返ると、近くに幸喜さんが立っていました。

 いつからいたのでしょうか。

 私の醜態しゅうたいを見られていたかもと思うと恥ずかしいです。


「は、はい。トラブルはありましたが、うまくできたと思います」

「そうか、じゃあ食べるか」

「食べる?

 幸喜さん、おせちは正月に食べるものです」

 今日はまだ大みそかの31日です。

 味がしみこむ明日まで待ってから完成となります。


「知ってる。

 でも千鶴、今何時か知ってる?」

 言われて時計を見る。

 午後三時だった。


「昼ごはん食べてなくて、腹減ってるんだ。

 作り置きもないから、これ食おうぜ」

 完全に失念してました。

 おせちを作るのに時間がかかることは知っていたのに。

 不覚。


「カップめん食べようとも思ったけど、千鶴がおせち作るなら、おせち食いたいなって思って。

 たくさんあるから、正月にまた食べればいいよ」

 味の沁みた完璧なおせちを、食べてもらいたかったのですが仕方がありません。

 お昼には、おせちを食べることにしたのでした。



          4


 重箱はこの家にないので、大皿に盛って、リビングに運びます。

 リビングには、テレビを見ていたお母さまがいました。

「あら、出来たのね。待ちくたびれたわ」

「申し訳ありません。お昼のことを失念していました」

「いいのよ。それにおなかの減っている時に食べるおせちは、とてもおいしいのよ」

 お母様は、特に気にする様子もなく許してくれます。

 いつかお母様のような器の大きな女性になりたいものです。


「じゃあ、食べましょうか」

 お母様の一言で、私たちは食べ始めます。

 おせちで作った料理はどれもおいしいものでした。

 長い間、愛された料理だけのことはあります。

 特に柚子を料理に使うことが少なかったので、その風味はとても新鮮でした。


 しかし、すぐにこれはもっと薄くした方がよかったとか、形が悪いとか色々と頭に浮かんできます。

 幸喜さんに不味いって言われないでしょうか。

 不安になって幸喜さんの方を見ると、一心に食べていました。

 おいしいのでしょうか?


 見ている私に気づいたのか、幸喜さんの箸が止まりました。

 幸喜さんは、よく咀嚼してから口の中のものを飲み込みます。

「旨いな、これ」

 幸喜さんは笑って、私のおせちを褒めてくれました。

 体の芯から熱くなるのを感じます。

 おせちを作るのは大変でしたが、苦労して作った甲斐があるというものです。


「幸喜さん、お代わりありますよ」

「いいよ。食べすぎると正月の分がなくなるだろ」

 そうでした。

 幸喜さんには、正月にもおせちを食べてもらわないといけないのでした。


 幸喜さんとお正月に一緒に食べるおせち。

 今回期せずしておせちを食べてしまいましたが、お正月に一緒に食べるおせちはきっと特別なもの。

 今からとても楽しみです。


 幸喜さんと出会って、一緒にいて、そしてこうして喜んでもらえる。

 今年はとても良い一年でした。


 来年もまた良い一年でありますように。

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