第11話 スキンシップ
1
放課後。
グッタリしている
あの後、日高は
やんわりと断ろうとするが、千鶴が泣きそうになるので言い切れない。
あの泣き落とし、女子にも効くらしい。
家に帰れば俺の番か?
そう危惧していたものの、千鶴は喋るのに満足したのか、放課後には大人しくなっていた。
今日もクラブには出ず、そのまま
今週は両親はおらず、臨時で今週の食事当番が俺になったため、食材の買い出しにいかないといけないのだ。
千鶴も料理はできるが、まだレパートリーが少ないので俺が基本的に作ることになる。
クラブを休むことをラインで部長に伝えると、怨みつらみのメッセージが返ってきた。
俺と部長以外は、名義貸しの幽霊部員なので寂しいのは分かるが、2日休んだくらいで大袈裟だ。
本当にめんどくさい人である。
まあ今週いっぱい出れないんだけど。
下駄箱で捕まってもめんどくさいので、さっさと帰るに限る。
2
学校から家まで、何も問題なく帰宅する。
スーパーに寄った後、千鶴の要望でコンビニに行ったが土井さんはいなかった。
千鶴はがっかりしていたが、正直助かった。
だが家に帰ってからが本番である。
冷蔵庫に食材を入れた後、俺は自分の部屋ではなく父の部屋に行く。
「
「父さんの部屋。許可は取ってる」
そういって中に入る。
千鶴は少し迷ってついてきた。
「お父様のお部屋に何かあるのですか?」
「うん。映画を見ようと思って」
父は映画が大好きで、よくDVDを買ってきては母に怒られている。
そのコレクションの一つである怪獣映画に用事があるのだ。
あらかじめ父に場所を聞いていたので、目当てのものはすぐに見つかった。
「これは…。怪獣ですね!」
千鶴は嬉しそうに笑う。
「千鶴と一緒に見ようと思って」
「幸喜さん…」
千鶴は目を潤ませて、顔をほんのり紅潮させていた。
ちょっと目を合わせられないくらい蠱惑的だ。
だが、俺に誘われたのが嬉しいのか、怪獣映画が見れて嬉しいのか。
普段の言動を見てると、本当にどちらなのか迷ってしまう。
「えっと、千鶴どれを見る?」
「うーん、どれがいいんでしょう?」
「俺もよく知らないんだよね」
確かに見に行った映画は面白かったが、怪獣映画をよく見るというわけではない。
正直、何がどう違うのだろうか。
「まあ、最近のを見れば間違いないだろ」
スマホで調べることもできるが、そこまでしなくてもいいだろう。
俺は公開日を見て、最近のものを持っていく。
そのまま部屋を出て、それぞれの自室で着替える。
俺が着替え終えてリビングに行くと、千鶴が見るからにウキウキした様子で待っていた。
「幸喜さん。遅いですよ」
「早すぎないか?」
俺も制服を脱いで、適当に服を着てきただけなのだが、千鶴はそれより早かった。
ワープでもしたか?
まあ、どうでもいいか。
俺は時計をちらりと見る。
午後六時。
映画を見てもいいが、晩御飯が遅くなってしまう。
千鶴に一度聞いてみよう。
「千鶴。晩御飯どうする?先に食べるか、後で食べるか?」
「後で。先に映画観ます」
「…分かった」
よく考えれば、馬鹿な質問だったと思う。
デッキにDVDを入れて、千鶴の隣に座る。
すでに、俺の席が用意されていたのでそこに座るしかなかった。
「じゃあ、観るか」
千鶴が俺の手を握り、満面の笑みを浮かべた。
3
映画を観ている間、千鶴はずっと興奮していた。
特に緊迫した場面では俺の手を強く握り締め、痛みで集中できなかった位だ。
と言うか、映画の内容を覚えていない。
最後何がどうなって、ああなったのか分からぬ。
父に感想を送れと言われているが、どうしたものだろうか
いや、千鶴に送らせればいいか。
熱狂的なファン同士、仲良くやるだろう。
「幸喜さん。面白かったですね」
「そうだな」
相変わらず楽しそうな千鶴に、そう言うしかなかった。
まったく覚えてないけどな。
「次観ましょう」
「ダメ。明日学校がある」
「一緒に休みましょう」
「ダメ。すぐに休もうとするな」
お前、建前上は勉強したくて、無理矢理学校に入れてもらったんだろうが。
「それに飯もまだだ」
「そうでした。お手伝いします」
千鶴は今気づいたようにお腹をさする。
こいつ、ほっといたら餓死するかもしれない。
千鶴は楽しそうに料理の準備をし始める。
今後の不安要素が増えたものの、千鶴がとてもご機嫌なのを見て、すぐにどうでもよくなった。
自分も結構チョロいのかもしれない
ハカセの言う通り、案外何とかなる気がするのだった。
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