第11話 スキンシップ

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 放課後。

 グッタリしている日高ひだかを見ながら帰り支度をする。

 あの後、日高は千鶴ちづるに休憩時間のたびに話を聞かされ、トイレに逃げても同性なのでトイレまで付いて来て話をされる。

 やんわりと断ろうとするが、千鶴が泣きそうになるので言い切れない。

 あの泣き落とし、女子にも効くらしい。


 家に帰れば俺の番か?

 そう危惧していたものの、千鶴は喋るのに満足したのか、放課後には大人しくなっていた。


 今日もクラブには出ず、そのまま千鶴ちづると一緒に帰宅する。

 今週は両親はおらず、臨時で今週の食事当番が俺になったため、食材の買い出しにいかないといけないのだ。

 千鶴も料理はできるが、まだレパートリーが少ないので俺が基本的に作ることになる。


 クラブを休むことをラインで部長に伝えると、怨みつらみのメッセージが返ってきた。

 俺と部長以外は、名義貸しの幽霊部員なので寂しいのは分かるが、2日休んだくらいで大袈裟だ。

 本当にめんどくさい人である。

 まあ今週いっぱい出れないんだけど。


 下駄箱で捕まってもめんどくさいので、さっさと帰るに限る。



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 学校から家まで、何も問題なく帰宅する。

 スーパーに寄った後、千鶴の要望でコンビニに行ったが土井さんはいなかった。

 千鶴はがっかりしていたが、正直助かった。

 

 だが家に帰ってからが本番である。

 冷蔵庫に食材を入れた後、俺は自分の部屋ではなく父の部屋に行く。

幸喜こうきさん。そこは?」

「父さんの部屋。許可は取ってる」

 そういって中に入る。

 千鶴は少し迷ってついてきた。


「お父様のお部屋に何かあるのですか?」

「うん。映画を見ようと思って」

 父は映画が大好きで、よくDVDを買ってきては母に怒られている。

 そのコレクションの一つである怪獣映画に用事があるのだ。

 あらかじめ父に場所を聞いていたので、目当てのものはすぐに見つかった。


「これは…。怪獣ですね!」

 千鶴は嬉しそうに笑う。

「千鶴と一緒に見ようと思って」

「幸喜さん…」

 千鶴は目を潤ませて、顔をほんのり紅潮させていた。

 ちょっと目を合わせられないくらい蠱惑的だ。

 だが、俺に誘われたのが嬉しいのか、怪獣映画が見れて嬉しいのか。

 普段の言動を見てると、本当にどちらなのか迷ってしまう。


「えっと、千鶴どれを見る?」

「うーん、どれがいいんでしょう?」

「俺もよく知らないんだよね」

 確かに見に行った映画は面白かったが、怪獣映画をよく見るというわけではない。

 正直、何がどう違うのだろうか。

「まあ、最近のを見れば間違いないだろ」

 スマホで調べることもできるが、そこまでしなくてもいいだろう。

 俺は公開日を見て、最近のものを持っていく。


 そのまま部屋を出て、それぞれの自室で着替える。

 俺が着替え終えてリビングに行くと、千鶴が見るからにウキウキした様子で待っていた。

「幸喜さん。遅いですよ」

「早すぎないか?」

 俺も制服を脱いで、適当に服を着てきただけなのだが、千鶴はそれより早かった。

 ワープでもしたか?

 まあ、どうでもいいか。


 俺は時計をちらりと見る。

 午後六時。

 映画を見てもいいが、晩御飯が遅くなってしまう。

 千鶴に一度聞いてみよう。

「千鶴。晩御飯どうする?先に食べるか、後で食べるか?」

「後で。先に映画観ます」

「…分かった」

 よく考えれば、馬鹿な質問だったと思う。


 デッキにDVDを入れて、千鶴の隣に座る。

 すでに、俺の席が用意されていたのでそこに座るしかなかった。

「じゃあ、観るか」

 千鶴が俺の手を握り、満面の笑みを浮かべた。



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 映画を観ている間、千鶴はずっと興奮していた。

 特に緊迫した場面では俺の手を強く握り締め、痛みで集中できなかった位だ。

 と言うか、映画の内容を覚えていない。

 最後何がどうなって、ああなったのか分からぬ。

 父に感想を送れと言われているが、どうしたものだろうか

 いや、千鶴に送らせればいいか。

 熱狂的なファン同士、仲良くやるだろう。


「幸喜さん。面白かったですね」

「そうだな」

 相変わらず楽しそうな千鶴に、そう言うしかなかった。

 まったく覚えてないけどな。


「次観ましょう」

「ダメ。明日学校がある」

「一緒に休みましょう」

「ダメ。すぐに休もうとするな」

 お前、建前上は勉強したくて、無理矢理学校に入れてもらったんだろうが。


「それに飯もまだだ」

「そうでした。お手伝いします」

 千鶴は今気づいたようにお腹をさする。

 こいつ、ほっといたら餓死するかもしれない。

 千鶴は楽しそうに料理の準備をし始める。


 今後の不安要素が増えたものの、千鶴がとてもご機嫌なのを見て、すぐにどうでもよくなった。

 自分も結構チョロいのかもしれない

 ハカセの言う通り、案外何とかなる気がするのだった。

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