第8話 家族会議

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 我が家のいつも賑やかなリビングは今、静かな雰囲気に包まれていた。

 万丈ばんじょう家の家族が集まり、家族会議が始まるのだ。


 参加者は、俺こと幸喜こうき、隣に座る千鶴千鶴、そして机の向かい側に座る母の三人だ。

 父は出張により不参加である。

 いても役には立たないが…


「さて、何から話したものかしらね。そうだわ。婚約パー―」

「申し訳ありません。お母様。帰ってくる前に幸喜さんと話したのですが、かなり嫌なようで、中止に…」

「そうなの。仕方がないわね。」

 えっ。本当に婚約パーティをやる予定があったのかよ。

 相変わらず、とんでもないものをぶち込んでくる母である。


「じゃあ、幸喜。何か聞きたいことある」

「うーん。実際それ言われると、何から聞いたものか…」

 俺は返答に詰まる。

 聞きたいこと言いたいことは、たくさんあるんだけど、どれから話聞いたものか迷ってしまう。


「じゃあ、千鶴ちゃんのことから話しましょうか」

「ああ、千鶴は、千羽鶴って聞いてるけど、合ってるよな」

「ええ。正確には千羽鶴の付喪神ね」

「ん?何が違うんだ?」

「もし全ての千羽鶴で願いを叶えられるなら、今ごろ世界に戦争はないわ」

 言われてみればその通りである。

 

「付喪神になったら願い事をかなえられるのか?」

「長い月日を過ごして少しずつ霊力を得て、いろんなことができる存在になるの。それが付喪神。

 千鶴ちゃんの場合、願い事をかなえることに特化してるのよ」

「聞いたことあるな。確か100年たった道具は…って、千鶴百歳以上なのか!?」

「駄目よ、幸喜。女の子に歳の話をするものじゃないわ…。

 百年っていうのも、長い時間っていう比喩なの。

 そうね。千鶴ちゃんはあなたよりちょっと年上くらいよ」

「え、どういう事?」

「千鶴ちゃんはね、まだ幸喜が生まれてないときに、母さんと父さんが折ったものなの。

 学生時代にね。当時付き合ってたあの人と、子供は女の子がいいなあって話ながら折ってね」

 雑念入りまくってる。本来の目的はどうしたんだ。


 俺が呆れているのに気付かず母は話を続ける。

「それであの日、玄関に立っていた千鶴ちゃんを見てピーンときたわけ」

 分かるもんなのか?

「それで、千鶴を祓ったり、追い出したりしなかったわけか」

「そうだけど、無害そうだったし。そんな時代でもないし。娘欲しかったし」

 ぶっちゃげたよ、この母。



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「あの、私から幸喜さんに質問いいですか?」

 千鶴が手を上げてこっちを見る。

「なんだ?」

「自分で言うのもなんですが、どうして私のことを信じてくれたんですか?

 妖怪や怪異など、あまり知らないようなのに…」

「ああ、この子ね、相手の言うことは全部疑わずに信じちゃうの…」

 俺の代わりに母が答える。


「美点ではあるんだけど、ちょっと行きすぎね。対策を練らないと、社会に出てから騙されてしまうわ」

「お母様、安心してください。お姉ちゃんである私が守ってみせます」

「いや、俺の中でお前は妹ポジだから」

 ここぞとばかり姉アピールする千鶴。

 好きでしょ、という目線を送ってくるが、違うからな。

 それはお前が姉ぶりたいだけだ。


「幸喜さんは、お母様の後を継がれないのですか?」

 千鶴の質問は続く。

「まあ、そういう時代でもないのよ。

 それに今は道具がいいのがあって、才能無くても何とかなるの。あるに越したことはないけどね」

「ハカセは、先祖代々と言ってたけど…」

「ほら、家の方針とかで色々あるから…」

 母が言い澱む。

 ハカセも大変かもしれない。

 次会ったら一回だけ優しくしてやろう。


「でも幸喜がやりたいって言うなら、それでもいいわよ」

「やらない」

「あら、即答しなくてもいいのに。まあ進路の一つとして覚えておきなさい」

 俺の返答に母は特に気にしていないようだった。


「じゃあ、千鶴ちゃんはどうする?陰陽師」

「駄目」

 千鶴が答える前に俺が拒否する。

「でも千鶴ちゃんが巫女服着てるの見たいでしょ」

 くそ。見たい。

「陰陽師って巫女服着んですか?」

「ほんとは違うけど、多様性の時代だから」

 今の時代って色々すげぇな。


「幸喜さん。巫女姿が見たくなったら、いつでも行ってくださいね」

 千鶴あくまが誘惑してくる。

 俺の決意を惑わすな!



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「そういえば、婚約って付喪神とかに関係あるのか?」

「全然ない。母さんの趣味よ。

 あと流行りの婚約破棄も無しね」

「どこで流行ってるんだ。

 ていうか婚約のこと考えるって言ってたよな」

「考えたわ。でもやっぱり自分に正直になろうって思い直したわ」

「ちょっと待て」

「それに幸喜は全然彼女作らないしね。心配してたのよ」

 痛いとこ付きやがって


「オレの自由意思は?」

「あの時、幸喜もそれで良いって言ったじゃない」

「あれほぼ脅しだったと思うけど…」

「まあ、幸喜が絶対に嫌って言うなら、もう一度考えるわ。

 あなたの気持ちまでコントロールしようとは思わないの」

 母が真剣な顔で見つめてくる。

 どうやら本気らしい。


「幸喜さん。嫌なんですか」

 千鶴が服のすそをつまんでこっちを見上げる。

 その顔は泣きそうで、俺の胸が痛くなる。

「それは…」

「大丈夫よ、千鶴ちゃん。幸喜は本当に嫌なことは、嫌って言うから。

 言わないってことは嫌じゃないのよ。たとえ流されたとしてもね」

 俺が何かを言う前に母がフォローを入れる。

 すると千鶴は安心したように、服を離した。


「幸喜、千鶴ちゃん。今いろいろ思うところはあるだろうけど、これから一緒にいれば分かってくるものがあるわ。

 婚約のことをどうするか、その時に話せばいいの」

「お母様…」

 千鶴が感動したように母を見る。

 いいことを言われて千鶴は騙されているが、俺は騙されない。

「でも、婚約は母さんの趣味なんだよね」

「うん」

 母は満面の笑みで答えた。



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「あら、もうこんな時間。話し込んでたわね。今日は母さんがご飯作るわね」

 そう言って母は台所に入っていった。


「幸喜さん、あの…」

 母が台所に入ったことを見て、千鶴が声をかけてくる。

 言いたいことは分かっている。

「千鶴。婚約のことだけど、俺どうしたいか、全然決まってないんだ。だから時間が欲しい」

「分かりました」

 そう言ったきり、千鶴は何も言わなくなって、気まずい空気が流れる。


 何を言うべきか悩んでいると、母が台所から戻ってきた。

「さっき言い忘れてたけど、母さん明日から出張でいないから。

 二人で留守番よろしく。まだエッチなことは駄目よ」

 母め。最後に爆弾落としていきやがった。

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