第8話 家族会議
1
我が家のいつも賑やかなリビングは今、静かな雰囲気に包まれていた。
参加者は、俺こと
父は出張により不参加である。
いても役には立たないが…
「さて、何から話したものかしらね。そうだわ。婚約パー―」
「申し訳ありません。お母様。帰ってくる前に幸喜さんと話したのですが、かなり嫌なようで、中止に…」
「そうなの。仕方がないわね。」
えっ。本当に婚約パーティをやる予定があったのかよ。
相変わらず、とんでもないものをぶち込んでくる母である。
「じゃあ、幸喜。何か聞きたいことある」
「うーん。実際それ言われると、何から聞いたものか…」
俺は返答に詰まる。
聞きたいこと言いたいことは、たくさんあるんだけど、どれから話聞いたものか迷ってしまう。
「じゃあ、千鶴ちゃんのことから話しましょうか」
「ああ、千鶴は、千羽鶴って聞いてるけど、合ってるよな」
「ええ。正確には千羽鶴の付喪神ね」
「ん?何が違うんだ?」
「もし全ての千羽鶴で願いを叶えられるなら、今ごろ世界に戦争はないわ」
言われてみればその通りである。
「付喪神になったら願い事をかなえられるのか?」
「長い月日を過ごして少しずつ霊力を得て、いろんなことができる存在になるの。それが付喪神。
千鶴ちゃんの場合、願い事をかなえることに特化してるのよ」
「聞いたことあるな。確か100年たった道具は…って、千鶴百歳以上なのか!?」
「駄目よ、幸喜。女の子に歳の話をするものじゃないわ…。
百年っていうのも、長い時間っていう比喩なの。
そうね。千鶴ちゃんはあなたよりちょっと年上くらいよ」
「え、どういう事?」
「千鶴ちゃんはね、まだ幸喜が生まれてないときに、母さんと父さんが折ったものなの。
学生時代にね。当時付き合ってたあの人と、子供は女の子がいいなあって話ながら折ってね」
雑念入りまくってる。本来の目的はどうしたんだ。
俺が呆れているのに気付かず母は話を続ける。
「それであの日、玄関に立っていた千鶴ちゃんを見てピーンときたわけ」
分かるもんなのか?
「それで、千鶴を祓ったり、追い出したりしなかったわけか」
「そうだけど、無害そうだったし。そんな時代でもないし。娘欲しかったし」
ぶっちゃげたよ、この母。
2
「あの、私から幸喜さんに質問いいですか?」
千鶴が手を上げてこっちを見る。
「なんだ?」
「自分で言うのもなんですが、どうして私のことを信じてくれたんですか?
妖怪や怪異など、あまり知らないようなのに…」
「ああ、この子ね、相手の言うことは全部疑わずに信じちゃうの…」
俺の代わりに母が答える。
「美点ではあるんだけど、ちょっと行きすぎね。対策を練らないと、社会に出てから騙されてしまうわ」
「お母様、安心してください。お姉ちゃんである私が守ってみせます」
「いや、俺の中でお前は妹ポジだから」
ここぞとばかり姉アピールする千鶴。
好きでしょ、という目線を送ってくるが、違うからな。
それはお前が姉ぶりたいだけだ。
「幸喜さんは、お母様の後を継がれないのですか?」
千鶴の質問は続く。
「まあ、そういう時代でもないのよ。
それに今は道具がいいのがあって、才能無くても何とかなるの。あるに越したことはないけどね」
「ハカセは、先祖代々と言ってたけど…」
「ほら、家の方針とかで色々あるから…」
母が言い澱む。
ハカセも大変かもしれない。
次会ったら一回だけ優しくしてやろう。
「でも幸喜がやりたいって言うなら、それでもいいわよ」
「やらない」
「あら、即答しなくてもいいのに。まあ進路の一つとして覚えておきなさい」
俺の返答に母は特に気にしていないようだった。
「じゃあ、千鶴ちゃんはどうする?陰陽師」
「駄目」
千鶴が答える前に俺が拒否する。
「でも千鶴ちゃんが巫女服着てるの見たいでしょ」
くそ。見たい。
「陰陽師って巫女服着んですか?」
「ほんとは違うけど、多様性の時代だから」
今の時代って色々すげぇな。
「幸喜さん。巫女姿が見たくなったら、いつでも行ってくださいね」
俺の決意を惑わすな!
3
「そういえば、婚約って付喪神とかに関係あるのか?」
「全然ない。母さんの趣味よ。
あと流行りの婚約破棄も無しね」
「どこで流行ってるんだ。
ていうか婚約のこと考えるって言ってたよな」
「考えたわ。でもやっぱり自分に正直になろうって思い直したわ」
「ちょっと待て」
「それに幸喜は全然彼女作らないしね。心配してたのよ」
痛いとこ付きやがって
「オレの自由意思は?」
「あの時、幸喜もそれで良いって言ったじゃない」
「あれほぼ脅しだったと思うけど…」
「まあ、幸喜が絶対に嫌って言うなら、もう一度考えるわ。
あなたの気持ちまでコントロールしようとは思わないの」
母が真剣な顔で見つめてくる。
どうやら本気らしい。
「幸喜さん。嫌なんですか」
千鶴が服のすそをつまんでこっちを見上げる。
その顔は泣きそうで、俺の胸が痛くなる。
「それは…」
「大丈夫よ、千鶴ちゃん。幸喜は本当に嫌なことは、嫌って言うから。
言わないってことは嫌じゃないのよ。たとえ流されたとしてもね」
俺が何かを言う前に母がフォローを入れる。
すると千鶴は安心したように、服を離した。
「幸喜、千鶴ちゃん。今いろいろ思うところはあるだろうけど、これから一緒にいれば分かってくるものがあるわ。
婚約のことをどうするか、その時に話せばいいの」
「お母様…」
千鶴が感動したように母を見る。
いいことを言われて千鶴は騙されているが、俺は騙されない。
「でも、婚約は母さんの趣味なんだよね」
「うん」
母は満面の笑みで答えた。
4
「あら、もうこんな時間。話し込んでたわね。今日は母さんがご飯作るわね」
そう言って母は台所に入っていった。
「幸喜さん、あの…」
母が台所に入ったことを見て、千鶴が声をかけてくる。
言いたいことは分かっている。
「千鶴。婚約のことだけど、俺どうしたいか、全然決まってないんだ。だから時間が欲しい」
「分かりました」
そう言ったきり、千鶴は何も言わなくなって、気まずい空気が流れる。
何を言うべきか悩んでいると、母が台所から戻ってきた。
「さっき言い忘れてたけど、母さん明日から出張でいないから。
二人で留守番よろしく。まだエッチなことは駄目よ」
母め。最後に爆弾落としていきやがった。
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