第7話 下校デート

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「家族会議ですか。幸喜こうきさん、何を話し合うんですか」

「決まってる。千鶴ちづるのことだよ」


 俺は千鶴は通学路を歩く。

 千鶴は当然のように手を繋いでいるが、またかと言う感情しか湧かない。

 慣れって怖い。


 あの後、やり過ぎだと思って本当に反省したのか、日高ひだかは放課後まで大人しかった。

 ハカセ加瀬が、俺の気持ちを汲んで、やんわりと注意してくれたのもあるのだろう

 俺から見れば、ハカセも同罪なんだが。


 千鶴は相変わらず引っ付き虫だったが、日高が大人しいので特にこれといった悪さはしていない。


 また本当はクラブもあったのだが、家の用事ということで、休ませてもらっている


「私のことを?婚約パーティの日取りが決まりましたか?」

「…仮にそうだったとして、千鶴はしたいの?」

「うーん、幸喜さんが好きじゃない感じですね。やめておきましょう」

「いつも思うけど、物事の判断基準が俺なの直した方がいい」

「えっ、婚約パーティやっていいんですか?」

「そんな事は言っていない」

 結構いい根性してるよな、コイツ。


「まあパーティは、幸喜さんが本気で嫌そうなのでやりませんが、あれはどうでしょうか?」

 そう言って千鶴が指差したのは、コンビニだった。


「買い食いか。定番ちゃ定番だけど」

「私、知ってます。こういうの好きですよね」

「好きだけどさ」

 好きではあるんだけど、恋人に限らず友達と来るのも好きなやつだ。

 だが反対する理由もないため、大人しくコンビニに入る。



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「幸喜さん、何買いましょうか?」

「自分が好きなものを買えばいいだろ」

「やだなあ。一緒に分けて食べるんですよ。幸喜さんにも聞かないと」

「自分一人で食え」

「奥にもありますね。見てきます」

「聞けよ」


 カウンターを見ると、店員のお姉さんがクスクス笑っていて、恥ずかしい。

「万丈くん、聞いたよ。彼女出来たんだってね」

「違います」

 俺は否定する。


 この店員のお姉さんの名前は土井どい

 大学生でよくここでアルバイトしている。

 この人は千鶴とは別ベクトルの美人であり、ハカセが積極的にアプローチするのでセットで覚えられている。

 俺のことはハカセから聞いたのだろう。

 アプローチに成功して、ラインの番号を交換してもらったと喜んでいたのを覚えている。


「でも、これは高校生の下校デートだよね。お姉さんがいうから間違いない」

 彼女は日高さんと同じ、恋バナ大好き系女子である。

「だから違いますって」

「まあ聞く感じ、恋人未満といったところだね。それはそれで美味しい」

 土井さんは楽しそうにからかってくるが、人生経験があるのか、不快な感じはしない。


「幸喜さん、見て下さい。これ一緒に食べましょう」

 千鶴が定番のパピコを見つけてやって来た。


「こんにちは。あなたが千鶴ちゃんね」

 突然話しかけられ、千鶴はビクッとして俺の方を見る。

 確かに、知らない人から名前を呼ばれれば驚く。

「私、土井っていうの。加瀬くんから聞いているわ」

 知り合いの名前が出てきたので、千鶴は安心したようだった。

「そうなんですね。私は千鶴です。幸喜さんの婚約者です」

「万丈く―えっと幸喜くんのこと好きなの?」

「はい。大好きです!」

「やった。大好物だ」

 土井さん、心の声が漏れてます。


「それは幸喜くんと一緒に食べるのね」

「はい、幸喜さんが好きなんです」

「じゃあ、違う味あるからそっちも買うといいよ。それで、半分交換して食べるの」

「確かに。買ってきます」

 会話が噛み合ってるのか、噛み合っていないのか、判断に困る。


 千鶴はすぐにパピコを持ってきて、そのまま会計をする。

 会計の間土井さんはニッコニコだった。



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 外に出ると、コンビニの暖かい空気から一変して、寒い空気に体を震わせる。

「すいません。アイス食べる季節じゃないですよね。浮かれすぎました」

「そうだけど、俺も止めなかったしな。日も出てるし、駄目ってほどじゃない。食べるか」


 コンビニの入り口を避けて、邪魔にならないようにする。

 俺はパピコの袋を開けて、中身を半分渡す。

 それを見て千鶴も袋を開けて、パピコ半分を渡してくる。


 パピコの口を開けて中身を食べる。

 冷たいので身震いするが、それでもパピコは美味しかった。


 千鶴の方を見ると、美味しそうに食べていた。

 その様子見て、これはいいなあ、と思っていると千鶴こっちを向いて目が合う。


「これ美味しいです。買い食いって楽しいですね」

 千鶴が満面の笑みで話しかける。

「そうだな」

 恥ずかしくなって、目をそらして店内の方を見ると、土井さんがこっちを見てニヤニヤしていた。

 他の場所で食べるべきだったのかもしれない。


「もう行くぞ」

「え、まだ残ってますよ」

「流石にこれ以上は寒い。家に帰って食べよう」


 俺が歩き出すと、千鶴は俺の横に移動して手を握る。

 アイスで冷えた手も、千鶴の手で温まってくる。


 手を握られるのはまだ恥ずかしい。

 でも、こういうのも悪くない。

 手に千鶴の暖かさを感じながら、そう思うのだった。

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