第7話 下校デート
1
「家族会議ですか。
「決まってる。
俺は千鶴は通学路を歩く。
千鶴は当然のように手を繋いでいるが、またかと言う感情しか湧かない。
慣れって怖い。
あの後、やり過ぎだと思って本当に反省したのか、
俺から見れば、ハカセも同罪なんだが。
千鶴は相変わらず引っ付き虫だったが、日高が大人しいので特にこれといった悪さはしていない。
また本当はクラブもあったのだが、家の用事ということで、休ませてもらっている
「私のことを?婚約パーティの日取りが決まりましたか?」
「…仮にそうだったとして、千鶴はしたいの?」
「うーん、幸喜さんが好きじゃない感じですね。やめておきましょう」
「いつも思うけど、物事の判断基準が俺なの直した方がいい」
「えっ、婚約パーティやっていいんですか?」
「そんな事は言っていない」
結構いい根性してるよな、コイツ。
「まあパーティは、幸喜さんが本気で嫌そうなのでやりませんが、あれはどうでしょうか?」
そう言って千鶴が指差したのは、コンビニだった。
「買い食いか。定番ちゃ定番だけど」
「私、知ってます。こういうの好きですよね」
「好きだけどさ」
好きではあるんだけど、恋人に限らず友達と来るのも好きなやつだ。
だが反対する理由もないため、大人しくコンビニに入る。
2
「幸喜さん、何買いましょうか?」
「自分が好きなものを買えばいいだろ」
「やだなあ。一緒に分けて食べるんですよ。幸喜さんにも聞かないと」
「自分一人で食え」
「奥にもありますね。見てきます」
「聞けよ」
カウンターを見ると、店員のお姉さんがクスクス笑っていて、恥ずかしい。
「万丈くん、聞いたよ。彼女出来たんだってね」
「違います」
俺は否定する。
この店員のお姉さんの名前は
大学生でよくここでアルバイトしている。
この人は千鶴とは別ベクトルの美人であり、ハカセが積極的にアプローチするのでセットで覚えられている。
俺のことはハカセから聞いたのだろう。
アプローチに成功して、ラインの番号を交換してもらったと喜んでいたのを覚えている。
「でも、これは高校生の下校デートだよね。お姉さんがいうから間違いない」
彼女は日高さんと同じ、恋バナ大好き系女子である。
「だから違いますって」
「まあ聞く感じ、恋人未満といったところだね。それはそれで美味しい」
土井さんは楽しそうにからかってくるが、人生経験があるのか、不快な感じはしない。
「幸喜さん、見て下さい。これ一緒に食べましょう」
千鶴が定番のパピコを見つけてやって来た。
「こんにちは。あなたが千鶴ちゃんね」
突然話しかけられ、千鶴はビクッとして俺の方を見る。
確かに、知らない人から名前を呼ばれれば驚く。
「私、土井っていうの。加瀬くんから聞いているわ」
知り合いの名前が出てきたので、千鶴は安心したようだった。
「そうなんですね。私は千鶴です。幸喜さんの婚約者です」
「万丈く―えっと幸喜くんのこと好きなの?」
「はい。大好きです!」
「やった。大好物だ」
土井さん、心の声が漏れてます。
「それは幸喜くんと一緒に食べるのね」
「はい、幸喜さんが好きなんです」
「じゃあ、違う味あるからそっちも買うといいよ。それで、半分交換して食べるの」
「確かに。買ってきます」
会話が噛み合ってるのか、噛み合っていないのか、判断に困る。
千鶴はすぐにパピコを持ってきて、そのまま会計をする。
会計の間土井さんはニッコニコだった。
3
外に出ると、コンビニの暖かい空気から一変して、寒い空気に体を震わせる。
「すいません。アイス食べる季節じゃないですよね。浮かれすぎました」
「そうだけど、俺も止めなかったしな。日も出てるし、駄目ってほどじゃない。食べるか」
コンビニの入り口を避けて、邪魔にならないようにする。
俺はパピコの袋を開けて、中身を半分渡す。
それを見て千鶴も袋を開けて、パピコ半分を渡してくる。
パピコの口を開けて中身を食べる。
冷たいので身震いするが、それでもパピコは美味しかった。
千鶴の方を見ると、美味しそうに食べていた。
その様子見て、これはいいなあ、と思っていると千鶴こっちを向いて目が合う。
「これ美味しいです。買い食いって楽しいですね」
千鶴が満面の笑みで話しかける。
「そうだな」
恥ずかしくなって、目をそらして店内の方を見ると、土井さんがこっちを見てニヤニヤしていた。
他の場所で食べるべきだったのかもしれない。
「もう行くぞ」
「え、まだ残ってますよ」
「流石にこれ以上は寒い。家に帰って食べよう」
俺が歩き出すと、千鶴は俺の横に移動して手を握る。
アイスで冷えた手も、千鶴の手で温まってくる。
手を握られるのはまだ恥ずかしい。
でも、こういうのも悪くない。
手に千鶴の暖かさを感じながら、そう思うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます