第5話 学校に行こう②

           1


 俺、万丈ばんじょう 幸喜こうきは、クラスでは程よい位置だと思っている。

 友人が多いわけではないが、嫌われてはいない、そんな位置。


 しかし違和感を感じた。

 クラスメイトは挨拶をしてくれるのだが、どうもよそよそしい。

 それに周りから視線を感じる


 いじめっぽくはないし、何かあったのだろうか。

 いや、何かあったのは俺の方だった。

 おそらく千鶴ちづると一緒に買い物をしたのを見られたのだろう。

 地元の商店街だしな。


 あとは千鶴だな。

 おそらく、サプライズで転校して来るとか、そのあたりであろう。

 漫画やラノベではよくある話だ。

 というか他に思いつかない。

 ただ、千鶴が来てから二日しか経ってないので、学校に来れるものなのだろうか


 どうしたものかと考えていると、“ハカセ”が教室に入ってきた。

 ハカセの名前は加瀬かせ、友人の一人だ。

 彼の持っている豊富な知識に敬意を示し、俺たちはハカセと呼んでいる。

 もちろんエロ方面である。


 ハカセは俺を見つけると、真っ直ぐこちらに向かってくる

 ヤツは好奇心で目が輝いていた。


「バンジョー、聞いたぞ。お前、自分好みの女の子を、家まで有無を言わせず連れ帰って、家の中で自分の世話をさせて、法的にも自分のもにするために婚約までしたそうだな」

 思わず椅子から転げ落ちそうになる。

「誰から聞いた」

「オレの母親から。親はバンジョーの母親から聞いたらしい。連絡網でも回ってるから、多分みんな知ってる」

 うそだろ。

 全部喋ってるじゃん。


「で、どうなんだ?どこまで進んでんの?」

「なんにも」

「嘘だろ。お前が衝動に身を任せて連れ帰るほどの美少女なんだろ!?」

「すでにそこから違うんだよ」

 相当下世話な会話だが、逆の立場なら俺も言うのでハカセを責められない。


「ところで転校生来るとか聞いてないか」 

「転校生?いや知らないぞ。さっき職員室行ったけど特に何もなかった」

「見落としたとか」

「オレが美少女を見落とすとでも」

 それもそうだ。

 こいつは可愛い女の子に弱いのだ。

「もしかして、さっきの女の子が転校してくる予定があるのか?」

 ハカセが嬉しそうに聞いてくる。

「そう思ってたんだけど違うみたいだな」

 とりあえず安心だ。

 とりあえず千鶴の対策は後回しでいい。

 対策を取れるかどうかは置いといて、あとはクラスメイトの誤解?を解くだけである。



          2


「おいおまえら席に着け。ホームルーム始めるぞ」

 だいぶ話し込んでいたようで、担任の先生がやってきた。

 クラスメイト達がおとなしく席に着き始める。

「じゃあ、お前たちの新しい仲間を紹介する。入ってこい」

 そう言われて入って来たのは千鶴だった。


 ばかな。

 転校生はいないはずでは。

 思わずハカセの方を見ると、悪戯が成功した子供のような満面の笑顔だった。

 そうだった。

 お前は可愛い女の子からの頼み事は断らないもんな。

 おそらく内緒にしてほしいと頼まれたのだろう。


 目線を戻すと、千鶴はこっちを見ていた。

 その目線は、まるで「こういうの好きですよね」とでも言ってるかのようだ。


 ああそうだな。

 知り合ったばかりの可愛い女の子が転校してくる。

 好きなシチュエーションだったよ。

 さっきまではな。

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