第4話 一緒に映画
1
翌朝、母に家を追い出されるように、
近くの商店街まで千鶴に必要な日用品の買い出しである
出る前に、何を買えばいいか分からないといったところ、リストをもらった。
買うものは、服や歯ブラシ、自分用のコップなどの私物から、部屋に飾るためのちょっとした小物
服はともかく下着と書いていないのはありがたい
正直、女子と二人であの売り場に行くには、人生の経験値が足りなさすぎる。
さてどこから行くか。
「
千鶴がつないだ手を引っ張る。
「何か用か?」
「はい。映画を見ましょう」
「映画?」
実はこの商店街には小さな映画館、いわゆるミニシアターがあるのだ。
なんでも、人は文化的に生きるべきだ、というこの街の方針によって建てらてたらしい。
この手の映画館は経営者が上映の映画を決めるらしく、普段は個性豊かなラインナップなのだが、好きなのかあるいは経営上の理由か、よく流行りものや話題作をやっているので、何回か来たことがある
そして最近の話題作といえば、怪獣映画だ
テレビでよく宣伝しているので知っている。
「幸喜さん、私、知ってます。こういうの好きですよね」
「好きかどうかで言えば好きだが、今見るの?」
「はい、後だと荷物増えますし。お母さまから、チケットもらってます」
「用意のいいことで…あれ、それ確か父さんと母さんが見に行くって言ってた気がするぞ?」
父が、母とデートしに行くんだと自慢していたのを思い出す。
「お母様は、お父様が出張から帰ってこないから良いと、言ってました」
思い出した。
そのあとすぐに出張が決まって、父はみるからに落ち込んでいた。
二人共、怪獣映画の大ファンで新作が出るたびに見に行っていたらしい
「まあいいや、見てみるか。気になってたし」
「では早速行きましょう」
2
「映画、面白かったです」
「正直甘く見ていた。すごい迫力だったな」
映画館を出て、近くの喫茶店に入って、昼飯を兼ねて感想会をする
カップルがやるのを見る度に、イチャイチャしやがってとか思っていたが、面白いものを見ると感動を共有したくなるものらしい
二人で感想を言い合う。
「映画館来てよかった。絶望感すごいな」
「幸喜さんが望むなら、私、ゴジラになりますからね」
「いやなるな。別にいつも絶望感を味わいたいとは思わん」
流石にゴジラ(物理系)女子はタイプではない。
というか怪獣になれるのか?
何でもありだなこいつ。
「本当ですか?怪獣、好きですよね」
「そこまでじゃない」
「残念です。でも怪獣がやってきたら、私の力で助けに来ますからね」
「そんな日が来ないことを祈るよ」
そのあと、注文したご飯が運ばれてきた後も、ずっと感想を言いあう。
主に千鶴が。
「それで怪獣がー」
「怪獣の―」
「そしたらどーんって怪獣が―」
いやもうずっと喋ってた。
なんか千鶴、ゴジラのことを好きすぎないか
怪獣を好きって、まるで子供みたいだ
聞く限り人間になったのは最近なので、目に入るもの感じるものすべてが楽しいのかもしれない。
なんとなく、話を聞いていると、小さな妹がいたらこんな感じなのかなと思う
3
ご飯を食べ終わった後、映画を見て満足した俺たちは帰ることにした。
帰る途中もずっと千鶴は喋った。
主に俺は聞くだけだったが、千鶴が楽しそうなのを見て、俺も嬉しい気持ちになる
いつの間にか、ちゃっかり手を繋がれていた。
だけど、なんとなく手を離すのが惜しくなり、気づかないフリをして家に帰った。
今日は本当に楽しい一日だった。
そして、家に帰ったところ母に買い物をしていないことを呆れられた。
俺たちは急いで商店街に戻り、買い物を済ますのだった。
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