第1話 出会い 前編

           1

 

 目の前の机に紅茶が2つ置かれる。

 俺の分と客の分である。

 母が今までに見たこともないような可憐で優雅な所作で紅茶を置く。

 そして俺にだけ見えるように親指を立てながら、部屋を出ていく。

 うるせえ。


 母が出ていったあと、部屋に客と二人きりになる。

 客というのは女の子だ。

 歳はおそらく同い年か年下くらい。

 綺麗な長い黒髪に、きめ細かい白い肌。

 幼いながらも整った顔立ち。

 強い意志を感じさせる黒い瞳。

 まるで自分の理想の女性が、頭からそのまま出てきたような女の子だった。


 そんな可愛い子と狭い部屋で二人きり。

 普通ならいろんな期待をするのだろうし、俺もしたかった。

 残念ながら彼女とは、知り合いどころか初対面である。

 なぜ俺を訪ねてきたのかが分からない。

 俺の頭はパニックだった。

 人生15年の経験を持って解明しようとしたが、彼女いる歴0年の自分には分からなかった


 彼女の方をちらりと見ると、彼女は熱い紅茶をふーふーと冷ましていた。

 ちょうどいい熱さになったのか、紅茶を飲み始めた。

 その紅茶の行先、つまり彼女の柔らかそうな唇に俺の目はくぎ付けになる。

 そして飲み終わってカップをソーサーに置くと、幸せそうに息を吐いた。

 その色っぽい動作に心臓の鼓動が速くなる。

 俺、今日死ぬかもしれん。


 いや、見とれている場合ではない 

 この状況は、俺の心臓に悪いので打開しなければいけない。

 まだ死にたくないのだ。

 静かに深呼吸して、平静を装いながら質問する。


「で、お前、誰なの?」

 彼女がこちらを見る。

 目線が合って俺の心臓が跳ね上がる。

千鶴ちづるといいます。最初に言いましたが、あなたに助けてもらったツルです」

「‥俺、ツルを助けた覚えないんだけど。人違いじゃないか?」

 本当に覚えが無い。

 というか現代社会でツルを助ける機会なんて存在しないだろう。

「間違いありません。私はあなたに救われました」

 そう言いきると彼女は居住まいを正す。

「あれははるか昔ー」

「そういうのいいんで簡潔にお願いします」

「…一時間くらい前のことです」



           2


 彼女の話と俺の記憶をすり合わせると次の通りである。

 部活の時、天気が良いというので部室を大掃除することになった。

 その時ロッカーの裏から埃をかぶった大きな袋を見つけた。

 袋を開けると中身は立派な千羽鶴が入っており、その大きさを見るに本当に千羽くらいはあると思われた。

 だが、ぶっちゃげかさばる。

 なので捨てるという話も出たのだが、勿体ないと思い俺がもって帰ることにしたのだ。

 そして置き場所を確保するため、一旦玄関の靴箱の上に置いていた。

 で、部屋を掃除した後玄関に戻ると千鶴がいたのだった。



           3


「なるほど。お前、あの時の千羽鶴か」

「はい」

 俺は納得した。

 持って帰ってきたはずの千羽鶴がないので、おかしいとは思っていたのだ。

 いや、まだおかしいな。

 なんで千羽鶴が美少女になってやってくるんだ?

「それで恩返しにきたのか。昔話みたいに」

「はい。恩返しも理由の一つですが、もう一つ理由があります」

 恩返し以外に理由なんてあるのだろうか。


「私は千羽鶴です。願いを叶えるために存在します。今日はあなたの願いを叶えに来ました」

「ああ、なるほど。えっ、俺の願いを?」

 俺は少し考える。

「千羽鶴ってことは、元々願掛けをして折られたんだろ。元の願いはどうしたんだ?」

「私が生まれたときのことですか?大会優勝を願って折られたんですけど、部員不足で大会自体に出てないんですよ」

 衝撃の事実に言葉を失う。

 願い事の優先順位おかしくない?


「なので願い事を叶えられず、私はずっとモヤモヤしていました」

 彼女は俺の目を真っ直ぐ見てきて、どきりとする。

「あなたの願い事が大会優勝というのなら叶えましょう。でも違いますよね。あなたの願い事、それは恋びー」

「チガウヨ」

 食い気味に否定する。

「恥ずかしがらなくても大丈夫。私には何もかもお見通しです。この姿もあなたの好みに合わせました」

「勝手に頭の中覗くなよ」

 通りで俺の好みの美少女だと思った

 だが、俺の好み知られてて結構恥ずかしい。

「さっそく結婚式を挙げましょう。そして子供の数は、えーと」

「話進めのんな。頭覗くな」


「待ちなさい」

 声の方を見るとそこには、ドヤ顔をした母が立っていた。


 後編へ続く

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