千羽鶴の恩返し~捨てられそうになった千羽鶴を持って帰ったら、可愛い婚約者ができました~

ハクセキレイ

プロローグ:初デート

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 俺は、近所の賑やかな商店街を歩いていた。

 その俺の隣を美少女が楽しそうに歩いていた。

 その美少女の名前は千鶴ちづる

 諸事情により、彼女は昨日から家族の一員となった。

 俺の婚約者という形でである。

 親が勝手に決めたことだが、千鶴は乗り気だ。


幸喜こうきさん、手を繋ぎましょう」

「いやだよ」


 千鶴に手を繋ぐ提案をされるが断るが、千鶴はニコニコ笑っている。

 さっきから、ずっと同じことを言っており、どうしても手を繋ぎたいらしい。

 だが、婚約者とはいえ知り合ったばかりの女子と手を繋ぐのは、いくら何でも恥ずかしい。

 何度も断っているのだが、特に気にしている様子でもなかった。

 純粋に買い物をするのが楽しみなのかもしれない。


 なぜ俺たちが商店街の買い物に来たのかと言えば、千鶴が使う日用品の買い出しである。

 彼女が急に我が家に住むことになり、いろんなものが足りないのである。

 必然的に買うものが多くなるので、俺は荷物持ちに任命されたのだ。

 母に無理矢理追い出されたともいう。

 仲よくしろって事だろう。


「いいじゃないですか。私、知ってます。幸喜さん、こういうの好きですよね」

「好きじゃない」

「素直じゃないなあ」

 素直でなくて悪かったな。



          2


 女の子と手を繋ぐ。

 好きか好きでないかで言えば、かなり好きだ。

 千鶴の言うことは正しい。


 それはそうだろう。

 可愛い女の子と手を繋ぐのは男の夢だ。

 そして千鶴は、俺の理想の彼女に近い。

 そんな女の子と手を繋いで、嬉しくない男がいるだろうか。いやいない(反語)。


 綺麗な長い黒髪に、きめ細かい白い肌。

 幼いながらも整った顔立ち。

 強い意志を感じさせる黒い瞳。

 小さな体から溢れんばかりの生命力。

 甘えん坊のようで、しっかりと芯がある。

 まさに俺の理想を体現したような女性。


 彼女に迫られて悪く思う人間なんて存在しないだろう。

 正直に言えば、彼女に対し欲望もある。

 だが俺も年頃の男の子であり、こういったアプローチはさすがに恥ずかしい。

 それを分かってもらえないのでである。



           3


 静かだと思っていると、不意に手が握られる感触がある。

「油断しましたね。繋いでしまえばこちらのものです」

 左手に伝わる柔らかな感触が、俺の心臓を跳ね上げる。

 千鶴の言動からその感触は彼女の手なのだろう。

 だが俺は見ない。


 見てしまえば、俺の手が千鶴に握られることを認めなければいけない。

 もしこれを直視すれば、俺は死ぬだろう。

 嬉しすぎて死ぬ。

 これは現実逃避ではなく、生存術なのだ。


「あっ、あれ見てください。道路の向こう。あのケーキ屋さん、カップル割り引きしてます。行きましょう」

 そう言うと彼女は俺の答えを聞かずに引っ張る。

 このシチュエーションは、俺の恋人にしてほしいことランキング上位であるが、嬉しさと恥ずかしさで頭のなかはめちゃくちゃである。


 ふと視界の端に車がこちらに来ているのが見える。

 しかし、千鶴は気づいていないようで、そのまま横断歩道を渡ろうとする。

 とっさに自分のほうに引き寄せるが、勢いで千鶴を抱き締める形になってしまう。

 思いのほか顔が近くなり、全身が熱くなる。

「ひぇ。幸喜さん、大胆です」

「違う!信号が赤だったぞ。気を付けろ」

 そう言うと千鶴は信号のほうを見て、赤に気付く。


「ごめんなさい。幸喜さん」

 そう言って千鶴は体を放すが、手は握ったままだった。

 手を放すつもりはないらしい。

 青信号を待つため、手を繋いで二人並んで待つ。


「幸喜さん」

 名前を呼ばれて千鶴のほうに向くが、彼女は正面を向いたままだった。

「助けてくれてありがとうございます。あ、信号変わりましたよ。行きましょう」

 彼女の横顔はほんのり赤くて、とても綺麗だった。



          4


 千鶴は俺にとって理想のタイプだ。

 それは間違いない。

 なんだかんだ言いながら、これからもうまく付き合えたらいいと思っている。

 今は恥ずかしいが、慣れてくるだろう。

 でも、一つだけ不安がある。


 今日だけでも心臓が何回も跳ね上がっている。

 長生きできるかな、俺。

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