第5話

 入学してから、早くも一週間が経った。授業はどれも初めてのことばかりで面白かった。


 それから、アイカのことについて衝撃の真実が隠されていた。


「リオさん、愛花さんはどこに?」


 昼休みに一人でご飯を食べる俺に二人の女子が近づく。

 丁寧な物腰で話しかけてきたのは、腰まで伸びる黒髪が特徴のシノ。


「アイカは男に呼ばれてどっか行った」


 そう。アイカは実はモテていたのだ。

 この一週間でよく男子に呼び出されているのを見た。


 たぶん、彼らはアイカの本性を知らないんだ。


「リオー、早く攻めないと取られちゃうよー?」


 俺を煽るような口調で茶化すのは、肩ぐらいで切られた茶髪のイチカ。


「その時は笑顔で譲るけど」


 そんなこと、ないだろうし。

 アイカは俺のこと好きだし。俺もアイカのこと好きだしな。

 俺の好きがアイカの好きと同じなのかは自分でも分からないけど。


「取られないってことー?言うねー」


 イチカが笑顔で肘を俺の横腹に当ててくる。


「おい、止めろ」


「照れてんのー?うりうりー」


 鬱陶しいんだよ。


「一香?」


「ひっ」


 イチカが小さな悲鳴を上げて俺から離れる。

 その後ろには笑顔のアイカがいた。目が笑ってないけど。


「ちょっと近いんじゃないかな。リオは手癖が悪いから危ないよ」


「おい、変な言いがかり止めろ」


 勘違いされたらどうするんだ。もう、友達この二人しかいないんだぞ。


「ちょっとじゃれあってただけだから!許してよ、愛花ー」


 イチカが顔の前で両手を合わせる。

 なにやってんだか。


「アイカ、早く飯食べようぜ。もう昼休みなくなるぞ」


「あ、そうだね。一香も紫乃も食べよ?」


「あ、うん」


「は、はい」


 二人ともお前にビビってんじゃん。

 だというのに、アイカは特に気にした様子もなく弁当箱を開いていた。

 そして、イチカとシノが弁当を持ってきて四人で食べる。


 入学してから、昼休みはこの三人と食べている。

 イチカとシノは一年生からアイカの友達らしくて、俺にも気安く話しかけてくれた。


「そういや、お前さっき魔力使った?」


 アイカにだけ聞こえる声量でアイカに聞く。


「……使ってないよ」


「嘘つけ。あれはお前の魔力だった。お前、何かした?」


 アイカの視線が泳ぐ。

 俺がじっと見つめると、諦めて口を開いた。


「リオをバカにしてきたからちょっと驚かしただけ」


 “だけ”って……

 ま、死んでないならいっか。


「あんまり、やりすぎんなよ。それと、一応ありがとう」


「べ、別にリオのためじゃないから。リオが舐められると私まで舐められるから、仕方なくよ」


「そのツンデレは面倒臭い」



◇◆◇◆◇◆



「リオ、明日服買いに行くよ」


 家に帰り着くとすぐにアイカがそう言った。


「まじ!?」


 俺は喜びを噛み締める。

 先週の土日は、アイカによるニホンの常識講座で探索できなかったんだよな。

 平日は学校だし。


「リオのあの服はこっちでは目立って着れないからね」


 俺は動きやすくて好きなんだけどな。でも、ニホンの服も気になっていたし、いっか。


「明日の朝から行くからちゃんと起きてね?」


「あいよ」


「あ、やっぱり平日と同じ時間に起きて」


 アイカが慌てて訂正する。


「ん?まあ、いいけど、早すぎないか?」


「ほら、準備があるじゃん。だから、早めに起きるの」


 いや、俺はそこまで準備に時間かからないんだよな。

 ま、いっか。いつも通りの時間に起きれば問題ないわけだし。


「おっけー」


 俺は適当に返事をした。



「……ふふ、覚悟しててね。日頃のお返しをしてあげる、リオ」

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