第3話
「え……誰?」
アイカのお母さんがアイカを見てそう言う。
「……ぇ?」
アイカの口からか細い声が漏れる。
どういうことだ?
歴史が変わったのは一年前って言ってたよな?全てが変わったわけじゃないから、アイカのことを知らないなんてことないだろ。
「……あー、なるほど。そういうことね」
お母さんが一人頷く。
「あなた、名前は?」
すると、俺の方を見て問いかける。
「リオ」
「リオ君ね。もしかして、出身は国外かしら?」
「そうだ」
まあ、国外というか異世界なんだが。
「それで、その髪と眼の色かぁ。日本語は上手いわね。うんうん」
……採点されてる?
「いくつ?」
「たぶん2――」
「16よ!」
20と答えようとしたらアイカが勢いよく被せてきた。
そっか、今のアイカの身体は16か。合わせておいた方が都合が良いんだろう。アイカに任せよう。
「……?まあ、いいわ。愛花」
「え!?」
今度はアイカと向き合うお母さん。あっさりと名前を呼ばれて、アイカはすっとんきょうな声を上げた。
アイカのこと知ってる。なんで、“誰?”って言ったんだ?
「ちゃんと、育てきれるのね?」
「育てるって……。うん、ちゃんと私が見る」
「そう。リオ君も任せっきりはダメよ?」
……何かすれ違ってね?お互い気づいてなさそうだけど、ここは乗っておこう。アイカの反応が楽しみだ。
「おう」
「それで、男の子?それとも女の子?」
「えぇ……男だよ」
お母さんの質問にアイカが呆れたように答える。
まだ、二人とも気づいてないみたいだ。
「そうなのね。名前とか決めたのかしら?」
「え?名前はリオだって、さっき聞いてたでしょ?」
「違うわよ。あなたたちの子どもの名前よ」
「……え?」
「……うん?」
二人がお互いに首を傾ける。
「ママ、なんの話してるの?」
とうとう、アイカがお母さんに聞く。
「妊娠したんじゃないの?」
「わ、私がリオとの子どもを?」
アイカの声が震える。
「うん」
お母さんはあっさりと首を縦に振った。
「ち、ちがーう!!」
顔を真っ赤にしたアイカの絶叫が響いた。
「ぶふっ」
俺は堪えきれずに吹き出してしまった。
◇◆◇◆◇◆
「ごめんね。愛花の雰囲気が朝と全く違っていたから。後ろに男の子もいるしできちゃったのかと」
アイカとお母さんが机に向かい合って座る。
“誰?”っていうのは、アイカが別人のように見えたらしい。異世界で四年間も過ごしていたから当然か。
俺はソファに寝転がってアイカのスマホを触っていた。
ソファめっちゃふかふかだ。スマホはすごいな。画像に動画ってのが特にすごいな。知識量も半端ないし。
奪うか?奪おう。
「全然違うから!」
アイカが顔を真っ赤にして否定する。
「えー、でもキスされたな。無理矢理」
「リオは静かにしてて!」
茶化したら怒られた。
「リオ君は彼氏なの?」
「ち、違う!」
“彼氏”?なんだそれ。
「じゃあ、リオ君は愛花のなに?」
「それは……た、大切な人」
アイカが恥ずかしそうにしながら言葉にする。
「嘘ではなさそうね。じゃあ、今日はどうしてリオ君をここに連れてきたの?」
「そ、それは……」
歯切れが悪くなるアイカ。
俺はというと“彼氏”について調べていた。
俺の国では一発で結婚なのに、こっちでは無駄なことするんだな。いや、自由に相手を選べるからこそか。
「はっきり言いなさい、愛花」
「リオをここに住ませてほしい、です」
部屋が静まり返る。
「うん、いいわよ」
「そこを何とかっ……て、いいの!?」
あっさりと認めるお母さんに驚くアイカ。
「もちろんよ。可愛い娘の初恋よ?全力でサポートするわ」
「ち、違うってばぁ」
顔を真っ赤にさせるアイカ。
パシャ
「お、これが写真か」
俺は撮れたものを見てみる。
俺が見た顔を真っ赤にさせたアイカがそのまま画像になっていた。
「え、あ!ちょっと、リオ今撮ったでしょ!?」
「うおっ」
アイカが神速で迫ってきた。
その前に俺は直感に従って空へ逃げる。
勘は当たって俺のいたソファにアイカが飛び込んでいた。
「今すぐ消して!」
下から吠えるアイカ。
「消せって言われても……」
消し方までは分からないんだよな。
それに、この表情面白いから取っときたい。
「無理」
「なら、捕まえるまで!」
アイカがジャンプする。
でも、天井の破壊を気にしてか力を抑えて速くない。
俺は風魔法で空を移動する。
アイカの手をすり抜け直線上の壁にぶつかる。
「逃げるなー!」
嫌だ。今捕まったら怖い。
「二人とも、家が壊れるわ」
ゾクッ
お母さんが笑顔で言う。
けど、目が笑ってない。
俺は黙って地面に降りる。
アイカも戦闘態勢を解く。
「ごめん」
「ごめんなさい」
俺とアイカはお母さんに謝った。
お母さんは許してくれた。
「それにしても愛花、いつの間にそんなに実力伸ばしたの?全然見えなかったのだけれど。それに、リオ君もどうやって空に浮いていたの?」
お母さんは今ので気になったことがあるようで、俺たちに質問する。
「……練習の成果かな」
アイカははぐらかすように答える。以前の実力がどの程度か分からないしな。
「空に浮いていたのは重力魔法ってやつ。空に浮くのはアイカに教えて貰った」
俺は重力魔法と相性が良くて、アイカが来る前から愛用していた。
でも、その時は身体を少し軽くするだけのものかと思ってて、重力魔法を活かしきれてなかった。
「重力魔法……?そんなの聞いたことないわ。リオ君の職業を教えてくれる?」
「いや、俺にはないんだよ」
「……無職?そんなことありえるの?」
お母さんが困惑する。
無職って聞こえ悪いな。というか、この世界は重力魔法はないのか?
アイカみたいに頭が良かったらすぐに使いこなせそうな魔法だと思うんだけどな。
「アイカ、この世界の魔法のレベルってどうなってんの?」
「そこまでは分からないよ」
そっか。思ったより低そうだな。でも魔法が発祥して一年じゃそんなもんか。
「リオ君はどこの高校に通ってるの?北山学園ではないわよね。そんな魔法を使えるのなら耳に入ってこないわけないし」
「俺、高校通ってない」
「なるほど。中卒なのね。どんな仕事をしているのかしら」
「中卒?仕事はしてないぞ」
「ええ?」
お母さんが再び困惑する。
何かおかしいこと言ったか?
「ま、待って!リオは決してニートでもヒモでもないから!」
何故か、アイカが慌てていた。
俺はそれを動画に納めた。
“ニート”、“ヒモ”って何だろう。
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今日もう一話投稿予定です。
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