微熱 2023/11/26

「懲りないねぇ。今回は誰にお熱なの?」

「サッカー部の杉咲くん」

 そう言われて、私は杉咲の顔を思い出そうとする。


「駄目だ。思い出せない。誰よ、杉咲って」

「幽霊部員だからね」

「それ、サッカー部って言っていいのか?」

「試合しか出ないの。数合わせで入ってるだけだし」

「もう一度言うぞ。それサッカー部って言っていいのか?」


 このまま続けても不毛そうなので話題を変える。

「なんで好きになったの?」

「んふー。弟が近くの小学生野球チーム入ってるんだけど、杉咲くんがそこで野球教えてるの」

「まさか本当にサッカー関係無いとは…」

「でね。弟に杉咲くんが教えるんだけど、その時の杉咲くんの表情、とってもカッコいいんだ」

「へぇ~」

「ちゃんと聞いてる?」

「聞いてるよ」


 もちろん聞いているとも。

 私はこの子の恋バナを聞くのが好きなのだ。

 でも恋バナが好きって訳じゃない


 この子の持っている熱が好きなのだ。

 恋に興味がない私にさえ、いいかもと思わせるくらいの熱量。


 熱が無い私に、彼女の熱が伝わる感覚。

 結構気に入っている。


 そうして何回も聞いていると、私の中にも熱を感じるようになった

 彼女に比べたら、なんてこと無い微熱くらいの熱


 気づいた時はびっくりしたけど、悪い気はしない


 ちょっとだけ、恋してみようかな

 

 

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