たまつばき
逢瀬を重ねる裏で、直之進は配下に凪の所在を探らせていた。
というのも、
平介は直接川戸村へ赴き、名主を訪ねる。が、齢十六の凪という娘は、やはり実在しない。では、首に痣のある女は居るか。
調べは年頃の少女だけでなく、年端も行かぬ童女や既婚者にまで及んだ。防寒のための首巻きや頭巾を外させ検分する。しかし、首をぐるりと一周する赤い痣の持ち主も、終ぞ見つけることは叶わなかった。
平介は首を捻る。これはいったい、どういうことだ。凪の言葉に偽りありか。
そして持ち帰る成果もなく屋敷へ帰ろうというとき、ふと、視線を感じた。村外れに植わる椿の、その葉の隙間から此方を見つめる目がある。血走る眼から放たれる眼差しが平介に絡みついた。逸らしたくとも逸らせない。いつか見たあの娘の瞳が、己を責め立てているような気さえした。息苦しさすら感じる視線に曝されしたたる冷汗、怖気立ち動かせぬ手足。窮した平介は、やっとの思いでぐっと目を瞑る。
おそるおそる瞼を持ち上げ、再び見やると、椿の木だけが風に揺られることもなく佇んでいた。
幻か否かはこの際、重要ではない。後悔の熾火でその身が焼け落ちるのではないかという焦燥が、彼を駆り立てる。平介は川戸村から、また
彼が去った後、血のように赤い椿の花が首のようにぽとりと落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。