おしえどり

 生首――ナギは、数日と空けずに直之進の寝所を訪れた。

 そうして直之進に話をねだっては他愛もない歓談にふけり、空が白む前に姿を消す。それ以上のことを求めはしない。肌で触れ合わずとも指先を絡めずとも、ただ語らうだけで幸せだと言外に滲ませていた。

 最初こそ物の怪かと警戒していた直之進もすっかりほだされ、饒舌になる。凪が欲しがるままに、故郷上州の景色や領内での出来事、日々の些事まで聞かせた。そのたびに凪は花笑みをたたえる。そこに、かつてでた女の面影を見た。可憐に振舞いつつも時おり凛々しさを覗かせる凪は、危うい儚さに満ちていた彼女とはたいして似てもいない。しかし、どうしてか、過日を思い出さずにはいられなかった。

 直之進はふと思いつき、話の合間に絹糸のような長髪をき、そのままついと引いてみる。それから首の切り口を指でなぞり、爪を立てた。

「……ッ! 痛うございます、直之進さま……」

「ああ。すまぬ」

 楽しげに耳を傾けていた凪の顔が歪むと、直之進は短く詫び、慰めるように優しく頬を撫でた。

 このとき直之進の心には、百般の表情を引き出したいという欲望が頭をもたげていた。血潮の流れる若い肌に、喜楽の相だけでは物足りぬ。耳元で、欲を満たせと鬼が囁く。直之進は凪に、執着とも言うべき感情を抱きつつあった。

 そして二人はねやで睦言を交わし、夜はけてゆく。

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