だんまり
ある宵、
喉より下のない首は、まるで翼を失った鳥のように所在なく転がっている。音もなく、ころりと。蝋燭の一つも灯していない室内では、
やがて長い睫毛に縁どられた瞼が震え、ゆっくりと開く。目覚めた生首は焦点の合わない眼で、いったい何を見ているのだろうか。美しい山河の
生首は不意に、引き結ばれた口を開いた。
――え、え、あ、あ……。
首は唇をそう動かしたきり、再び口を閉ざす。こぼれ落ちた言葉は、音にならず闇夜に溶けて消えた。首はやはり、ぼんやりと、ただそこに居るだけだ。
夢かうつつか。翌朝、首は姿を消していた。生首どころか、畳には血の一滴もしたたり落ちていない。最初からそこに何も存在しなかったかのように、煌めく陽光が日常を照らしている。
直之進は、あるはずのない血痕をその指先で撫でた。
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