第40話 グッドエンドの階段を駆け上る


「どう見ても骸骨じゃん、船長席に座ってるの」


「それと液体金属生命体、だな。体にまとわりついてる」


 骸骨がケタケタ笑う。


「我の攻撃を突破するとは。褒めてやろう」


「俺は交渉のためにここに来たんだが、交渉どころじゃなかったな。俺と雪菜、2人の来訪人でお前を運営に告発する。大分前からライドはしてあるからな。バグった液体金属生命体で団員をログアウトしてからも操作したこと、これだけで規約違反だ」


「我がやったことではない。この液体金属生命体がやったことだ」


「液体金属生命体はそれ単体では増やせないよ。誰かに寄生して血液とか、なにかを吸わないと増やせない。お前に寄生しているのは明らかだ。」


「この骸骨に供給できる血液があるとでも」


 ケタケタ笑う骸骨。


「骸骨で生きてるだけで規約違反とも思えるけどここはTSSだもんね、何でも起こりうる。でもあんたは骸骨じゃない。それは喋り用の素体に過ぎない。ここに来るまで何個も大きな臓器を見てきた。おそらくはそれが本体の臓器でしょう」


「くくく、証拠はあるのかな」


「そんなもん要らねえんだよ。俺はアキちゃん同盟のトップだ。戦争のケリをつけにきた」


 そして後ろに隠れてたアキちゃんが飛び出す。


「いきます! 桜花巨大波動弾!」


 巨大な波動弾が骸骨を飲み込む。

 骸骨周りにくっついていた液体金属生命体はバグが取れて崩れ落ち、骸骨もまた消滅したのであった。


「骸骨もバグだったってこと? なんでもバグで操るな」


「しかし、この後どうなるんだ。何が起こるかわからねえ」


「私の真極大波動弾で全てを浄化します。いったん外に出ましょう」


 そういってみんな部屋の外に出る。するとそこには。


「紫の騎士か」


 そう、紫の騎士が佇んでいた。


「ここは私と夏芽で受け止める! みんなは外に出て浄化の準備を! ディンゴ、アキちゃんを頼んだ!」


「任せろ! さあ行きますよアキちゃん!」


「ご主人様ファイトです! いくぞキモいの!」


 さあて、最後の試練だな。



 騎士との攻防は完全に私の負けだった。

 なにせ太刀筋が見えないし切られたら骨ごと断ち切られるのだ。レングス外地に今から行く暇なんて有るわけ無い。普通にやったら勝てない。即座に始末するしかない。


「夏芽、私の体を接着する作業はほどほどにして、自分をこの部屋にまき散らせ。バグ特効であいつを処分する」


 夏芽が自分をまき散らしはじめる。それにかからないように紫の騎士はいったん距離を取る。その間に夏芽を接着剤にして切断されたところを傷口修復で接着していく。造血レベル15、止血レベル20、痛み軽減をレベル5にしておいて良かった。なかったら気絶してる。


 紫の騎士は時間をおいたら自分が負けると悟ったらしく光速のようなの速さで接近し私の首を切断しに来る。

 さすがにこれはわかっていたので銃で受け止める。

 半分くらいまで銃に剣が刺さる。


「もらった!」


 銃をひねり、引き込み、こちらへと騎士を引きつける。

 剣を手放せなかった騎士はよろけるように私に接近する。


「この距離は私の距離。夏芽!」


 夏芽が4つのかぎ爪を持った銃に変形する。


「いくぞおおおおお!! 白熱のおおおおおおお!!」


 かぎ爪が胸を捉える。これでもう銃弾は当たる。逃げることも叶わない。


「パイルウウウウウウウウ!! バンカアアアアアア!!」


 夏芽の超々重量弾が銃口から押し出される!

 私の魔力によって押し出された弾、その速度は光速の5パーセント以上にも達する!

 その銃弾が銃口から発射されると……。


「なんかズレたな? 騎士は死んでるけど」


 ぴろんぴろん。


【お詫び:先ほど一部のワールドでサーバーの不具合が起こり、30秒ほどのラグが生じたことをお詫びします。補償は――】


 おお、30秒か。サーバー増強したんだな。本気で打ったんだけど。


「まいっか。じゃあ騎士を食べて経験値にしよう。夏芽お願い」


 部屋中にまき散らされていた夏芽が一斉に騎士に群がる。むしゃむしゃ食ってら。これはこれでくらったら騎士死んでるな……。


【100000経験値、10000ポイント、100万ドルエンを入手しました。】


【紫の3妖怪を倒したことで、あなたは職業が種族の女神となります。おきつね族の女神ですね】


 おー凄い経験値。そして転職したぞ。なんだろな、スキルは買えるっぽいし。ステータスに差は無さそうだ。なにかスキル貰えたのかな? あとで確認してみないと。


「この小娘が。我の下僕を倒しおって。我が直々に始末してやろう」


 そう声が響くと、艦橋が崩れていって、艦橋並みにデカい人間が現れた。皮膚はない。毛は薄くてハゲてる。全長50メートルくらい? キモいな。

 艦橋は崩れたけど私は飛べるから問題は無い。飛べるって強いなー。


「お前キモいな。はーげはーげ」


「ハゲとらんわ! このグリム・ドーワを愚弄する気か!」


 おいおい、名前グリム童話かよ。マジで意味がわかんないな。


「あんな巨大な人間いるの?」


「私が雪菜様を全て食べた場合、ああいうことも可能になります。融合してますからね、体を作り替えることも簡単です」


 そう夏芽が言う。私の声で。へーそうなんだ。私の声を使うのはもう認めよう。


「つまりこれでバグった液体金属生命体を使って自分を作らせていたことが確定したわけだね。世界統一は終わりだね」


 当たり前だけどライドしてるからね。数千万人が見てる。


 ぴろりろりんぴろりろりん。


 ディンゴから通話だ。


『こちらディンゴ。アキちゃんも俺も無事だ。そっちは大丈夫か』


「こっちはなんともないよ。アキちゃんに目の前のバグ人間を処理出来る技はあるか聞いて」


『――あるそうだ。桜花奥義・究極覇王特大波動弾で、もれなく包みきれるって言ってる。貯めるのに時間がかかるらしい』


「んじゃそっちの防護は任せた。こっちで注意を引くね」


 ここはモンスター掃除してないし、バグった船員もまだいると思うんだよね。


『任せろ! 俺たちがここに来た超巨大戦艦に何人の兵士が乗ってると思ってるんだ! お前ら! 出番だぞ! 巨大戦艦も海兵隊乗せてワープインさせてくるぜ!』


 巨大戦艦がワープインする時間なんてあるのかねえ。

 などと思いつつオーバードライブしてレベルをあげたマジカルミサイルで攻撃を始める。銃は使えなくなっちゃったからね。


「わははははは、この速射スピードにこの威力、さすがに見たことなかろう。あんまり効いてないっぽいけど」


「もう何百年も何らかの液体を吸わせ続けたのでしょうから、膨大な量の液体金属生命体を保有してると思います、雪菜様」


 まあでも、こっちに気を取られているのは実際のところで、反射か何かでマジカルミサイルを撃ち返してきていた。

 そして合間合間に液体金属生命体の重量弾や拡散弾などを放ってくる。ほう、そっちの金属ちゃん、魔法は放たないのか。こちらは同期しているので夏芽がいくつにも分散して魔法を放ち、マナ補充のために一つになって、を繰り返している。


「んん? なにか人が集まっておるのう。そこにアキがいるのか? アキだけは消滅させねばならぬ。あいつは世界にとって害悪でしかない」


 グリム童話が人を感知してアキちゃんの場所に当たりをつけたみたいだ。

 こちらに気を向かせるのは無理だろうから、防御の何かをしなければ。


「こういう巨大戦で魔導防壁って効くのかね……?」


「私が巨大化します! 行ってきます、雪菜様!」


 そういうと夏芽がどばあああああああああああああああああああああああっと流れ出してみるみるうちに私の液体金属版を形成。グリム童話と同じくらいの大きさになった。


 巨大格闘戦が始まる。

 ただ、夏芽が不利である。どうにも夏芽が軽い。


「凄い! ただな、夏芽は一年も吸ってない。造血して血液の量を増やしたけど質量はそこまでないはず……ええい、私の方でなにか無いのか!」


 そうだ、あれがある!


「パワーエンゲージ取得! 夏芽、私の脳と[同化]して! 同化すれば全てのスキルを共用できるわ!」


「雪菜様、それは禁じ手です! 同化は危険すぎます! 雪菜様の意識と混同してしまう!」


 銀色の私が私の声で私と喋ってる不思議な世界。こりゃあグリム童話だわ。


 いやいやそういうのは置いておいて。


「夏芽と私なら出来る! だって親友じゃない!」


「わ、わかりました。同化させて貰います!」


「ククク、これで勝ったわい」


 出来るんだよ、出来るんだよ!


「出来るんだよおおお! なぜなら! 私は! おきつね族の女神だからあああああ!!」


 ぶわっと私の背中から巨大な羽が広がる。緑色のオーラであたりが包まれる。


「では、いきます!」


 私の意識に何かが侵入する感じがする。でもそれは気持ち悪いものではなかった。一緒に頑張ろう、夏芽。

 はい、雪菜様。


「――同化は成功したみたいね。夏芽、これを受け取って。オーバードライブレベル20、力を同化できるスキルパワーエンゲージ、そして」



 一時取得スキル、吸収。バグ特効5。


 ここから先は一方的な展開だった。


 オーバードライブレベル20とパワーエンゲージで底力が爆発的に上がった夏芽がボコボコにグリム童話を殴り、殴った側から触手を突き刺しバグった液体金属を吸収していく。

 バグった液体金属は巨大なバグ解除機構『巨大雪菜になった夏芽』の中でバグを取り除かれ、普通の液体金属となり、夏芽に吸収されていく。

 グリム童話も反撃をしてくるが夏芽は意に返さない。殴られればそこに触手を刺し、魔法を撃たれたとて多少の魔法なら私が持っている魔法防御系統で無力化する。


「バグっただけじゃ、勝てない物もあるのよ、グリム童話さん」


「くそがぁぁぁ!」


【ヘルプさんより連絡です:大規模なバグを発見したため、この地域を一時封鎖しバグの削除を行います。5分後に開始予定です。一時的にログアウトされますがバグ削除後にログインできるようになりますのでお待ちください。補償は――】


「止めは運営がするってこと?」


『やべえぞ、あいつはあの、強力なバグ削除機能があるジダンにいて、発見されなかったんだ。この削除でも逃げ切られる恐れがある』


「あーディンゴの言う通りかも。アキちゃんはどうなってるかな」


『お前のオーバードライブで大分集中が乱されたみたいだ。5分はギリギリだな』


 うーん、夏芽は間に合わないし、アキちゃんはギリギリ。

 どうしよ。

 とりあえず――。


「アキちゃん、おきつねの女神です。女神が応援するわね、ふぁいとっふぁいとっ」


 次の瞬間、桜花奥義・究極覇王特大波動弾が放たれた。現金すぎるぞアキちゃん。


 世界はアキちゃんの光で包まれ――。


 グリム童話はバグを取り除かれて消え去った。


 あたりには大量、いや膨大な量の液体金属が残された。生命体ではない。意識はもうないようだ。バグったときに意識はなくなってしまったのだろう。


【ミッションクリア報酬として称号、The Second Storyの守り神、が授与されます】


 何かよくわからんもん貰ったけど、ミッションクリアしたってことはグリム童話を始末したってことだね。


 じゃ、外地の人にお礼を言って帰るか。

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