第25話 さかきゆきな

『ドンガラガッシャッシャッシャーンドンドンパフパフドンパフー』


【40万経験値、1万スキルポイント、1000万ドルエンを入手しました】


 夏芽が融合してから10日後に、とんでもなくでかい音が頭の中に鳴り響いて、大ミッションをクリアした。左腕を修復しろ、だったよね。


「なんでこのタイミングなんですかね、ご主人様」


 なんで10日後って思うけどなんとなく私にはわかる。

 夏芽が私の左腕を食べきったのだ。

 文字通り食べたのだ。そして夏芽の能力で私の左腕を構成している。

 食べて、構成を記憶して、それを構築している。というわけだ。

 夏芽が勝手にやったことだが私はさほど気にしていない。

 左腕が使えればそれでいいし、夏芽もディンゴに魔導砲を撃ったとき見たく左腕を自由に変形させて行動が出来る。自由な夏芽はとても強い。

 ただ、全身全て食わせたらそれは私なのか、というのはあるよね。だから左腕を食べさせたのと、骨に融合させたくらいしか身体をいじらせてはいない……はず。夏芽が私を乗っ取るとは思えないんだけどさ。

 私の周辺は私大好きっ子しかいないのである。デヘヘ。


「うにゅにゅ、うにょうにょ」


 左腕の夏芽を動かして運動させる。


「なんかもったいないですね、せっかくリハビリにも耐えて自分の左腕を手に入れたのに」


「でもこんな感じに左にいきなり倒れても」


 夏芽がとっさについたてとなって私を支える。


「こんな風に補助してくれるんだよ。便利じゃない?」


「それはそうかもしれないですけど。ぱっと見だと敵に見えますよね。ヴァノムみたい」


「ヴァノム?」


「TSSで流行ってたラブコメ映画に出てきた敵ですよ。腕を触手みたいに伸ばして主人公を襲ってくるんです。観たことないんですか?」


 ないわ。最近映画観る機会無かったわ。本も読んでないわ。一ヶ月超もリハビリで寝てたのに。


「一旦ログアウトして映画観まくってくるかなあ」


「今ログアウトしたらここに置いてけぼりになっちゃいますよ」


 ああそうだ、そろそろディンゴが帰るから便乗するんだった。

 最後の調整は乗組員乗せてするしね、ここを早く離れたいってのはあるよね。


 それじゃあディンゴにも呼ばれたし一旦帰るか。

 6層にお家建てたいし!

 超巨大空母に乗せて貰って、これまたドティルティ側から4大都市に出る。ディンゴは見せびらかすように街道を進む。アキちゃん同盟は5層に並ぶぞ、というメッセージを誇示したいんだろう。

 しかしディンゴが5層と並ぶ、ねえ。私たちがジダンで出会ったあのひょろひょろギャングが今じゃスーツ着て魔導素体だもんな。ちょこざいな海賊が今じゃ世界組織だもんな。アキちゃんファンの団結力って凄いや。え、アイツの統治力なんて屁のつっぱりにもならないんじゃないの? 違うの?


 んでジダンに戻る前にディンゴから相談があった。なんでも、


「ジダンの船着き場の収容能力が足りねえ、おまえんところの収容能力に余裕はないか?」


 だそうで。あるんだなこれが。まだお家は作ってないけど埠頭と船着き場だけは作ってあるからね。。6層の船着き場は超巨大戦艦二艘と超巨大空母二艘、大型戦闘艦300艘以上を一度に収容できる能力を持っているのだ。今はお金をステータス向上に使っているけど、飽きたら戦艦買おうかなって思っていて。てへぺろ。

 船着き場の収容能力拡張自体にお金はそんなにかからないし、船着き場は別次元との繋がりの場所で中身は別次元だから拡張するのは簡単だしね。4層のお家も巨大戦艦くらいは入るようになっていたりする。


「一時収容くらいならしても良いよ。あんまり関係を疑われるのも嫌だから早く出て行ってね」


「ありがてえ。6層の拠点作ったらそっちに移動させるからその間だけ面倒見てくれや」


 そんなことで超巨大空母は私の埠頭に寄港し、船着き場に移動したのであった。




 ――さて、少し静かな生活を数ヶ月送っている。

 大ミッションは出ないし、本は渡してるし、鍛錬と小ミッションを毎日こなすだけ。

 はー、これくらい難易度が低い生活の方が優雅で良いわぁ。


 印税いくら入ってきたんだろ、どれどれ……。


【資金残高:約10兆ドルエンです】


 10兆ドルエンか。結構入ってきたな。ステータス引き上げるか。


「今回のヘルプさんお勧めのステータスは、っと1兆ドルエンくらい手元に残すとして」


【筋力523、魔力775、器用654、体力486、8兆6564万4089ドルエンです】


 ほう。魔力凄い引き上がるな。お金貯めた甲斐あるわー。筋力も器用も引き上がるからレングスいってキアちゃんに新式銃作って貰わなくちゃ。

 じゃ、これでお願いしまーす。


 ドゴーン


 ステータスが引き上がった瞬間、身体に電撃が走った。

 こ、この身体は凄い。圧倒的存在だ。

 夏芽が怯えているのがわかる。夏芽の能力を超えているのだろう。

 ゆうてこの子は私の血液を生命力にするから、ある程度したら夏芽もこの能力になるんだけどな。


「何したんですかご主人様ー!」


 アキちゃんが大急ぎで私の部屋に入ってくる。


「いや、ステータス購入したんだけど」


「いきなり引き上げすぎです! 私急に引き上がったからびっくりして気絶しちゃったじゃないですか!」


「ああ、ごめんごめん。アキちゃんはこれ以上にステータス上がってるもんね」


「そうじゃなくて、もう!」


 ぷりぷりしながら私の部屋を出て行くアキちゃん。

 そっと、スキルポイントでしか買えない、基礎ステータス向上を5にしてみる。2割くらい引き上がったんじゃなかろうか。

「ぴゃー!!」という声と共にドサッっとなにかが倒れる音がした。

 おもしろ。


 スキルポイントでしか買えないスキルは売れるので基礎ステータス向上は売っておいた。スキルポイントは貴重だからね。売った瞬間ステータスが急激に下がったので私もアキちゃんも「のわぁ!」といって倒れたのは内緒。


 ここまで強くして何をするのか。

 上がるなら上げておきたいだけである。

 バグ魔物とか急にでてきたら困るもんなぁ。戦いたくないけどさ。


 どうすれば関わり合いにならなくて済むのかわからないけど、大ミッションがアラームを出してくれるのは事実。

 バグ魔物を倒せとは書かないけど、難しいミッションはバグ魔物が関わってる。

 今はナビゲートもMAPもレベル5だし、ミッション目標の正確な場所がわかるからそっちに行かなければよいだけ。


 よし、逃げる算段はついた。じゃあレングス行きますか。レングスには何かと用事がある。ジダンから遠い田舎の大都市なんだけれどもね。


 6層のお家の構造に適当な案を出してからコルベットに搭乗。レングスまで一直線。悪者の街ヘックスも私相手に手を出すほどバカじゃないので素通りさせてくれる。高速コルベット仕様にしたから普通じゃ追いつけないほど速いしね。あ、アキちゃん置いて来ちゃった。


 レングスに着いた! 埠頭に回って船着き場にコルベットを預け――公共の船着き場では日貸しみたいな感じで利用料は取られます――、まずはソフィアさんの所に。今の時間だと酒場かな? 酒場へ行ってみた。


「おーいたいたソフィアさん。こんにちは」


「こんにちは。また会えてうれしいわ。今日は飲むのかしら?」


「ええ、軽く。あとはソフィアさんとおしゃべりしたいなあって思って」


 ソフィアさんはにこやかな笑顔になり、


「それは嬉しいわね、じゃあちょっと一緒に飲もうかしら」


 などと嬉しいことをいってくれるのであった。


 乾杯をしてレングスの美味しい牛肉を食べる。やっぱこの肉よなー。


「はーおいし。今日は飲むだけじゃなくてレングスに投資をしようと思ってきたんです」


「投資? いったい何に?」


「わかりません。私経営は詳しくないので。現実世界でも本の管理会社の運営は幹部にやってもらってますし。なのでブルターニュ家に資本投資をしてしまおうかと」


「まあ、嬉しいわね。いくら投資して貰えるのかしら。100万? 200万?」


「5000億」


「……え?」


「ですから、5000億ドルエン。私の本の販売権利も貸し出しましょう。ここでしか買えない本があれば街道を歩く人も船も増えて賑やかになる、最高じゃないですか」


「……え?」


 目が点になってるソフィアさんを連れ出してブルターニュ一族のお屋敷へ。

 さっさと契約書を作って貰い資本提携を済ませる。

 聞いた感じブルターニュの資本は500兆ドルエンくらいみたいだから何冊も書いて何年もお金貯めればいつかレングス買えるなあ。買ってもいいな。


 やっとしゃっきりしてきたソフィアさんを置いて次はキアちゃんだ。

 キアちゃーん。


「なるほど、ステータスの向上をして、左腕も手に入れてきたんですね。それなら新しい銃が必要ですね。ステータスはどんな感じなんですか?」


「えっと、筋力523、魔力775、器用654、体力486、だね」


「……え?」


「一応魔力全開にするね。はぁ!」


 マナ――魔力が具現化された物質――の圧が凄くて吹き飛んでいくキアちゃん。


「危ない! 夏芽!」


 にょーんと左腕が伸びていき、キアちゃんをぐるぐる巻きにしてキャッチ。

 そのまま戻ってきてキアちゃんを立たせた状態にした。


「……なんで左腕が伸びるんですか」


「夏芽がいるから。安全安心だからだいじょーぶ!」


「とんでもない魔力もそうだし、あなたいったい何者なんですか」


 私はとびっきりの敬礼をし、


「さかきゆきなでございます!」


 と、とびっきりの笑顔で答えたのであった。

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