第22話 100冊書いた

「私はここのリーダーを務めているオラザル・ドルエスキーだ。ディンゴよ、済まないな、先に三者面談を行わせて貰って」


「まあ事情はなんとなくわかってる。良いってコトよ」


 凄い立派な応接間に通されて、察し合う二人。全然わからないウチら。何がどうなってるんですかねー


「そして榊雪菜殿とアキちゃん様で有らせられるな。此度は長い旅大変ご苦労であった。アキちゃん様、ぶしつけなお願いだが、数日休んで疲れが取れたらここの民と触れあってはいただけぬだろうか」


 なんか謙譲語と尊敬語が混ざってる。緊張してるなこれ。


「ん? 遊ぶのなら別に良いですよー。何して遊びましょうか」


「そうか! よかった、よかった」


「なんかアキちゃんが重要参考人物になってますが、何でですか?」


 オラザルは着ているスーツの襟を正すと。


「外地は遊ぶ物が少なくてな、唯一の娯楽と言っても良いのがアキちゃんのライドを見ることなのだ。われわれはすべからくアキちゃん派なのだよ」


「あ、そーなんですかー、あはははは」


 乾いた笑いしかでねーよ。


「んじゃ早速ライドしてじゃれ合いましょうか? せっかく来たんだし」


「ああ、ライドはやめてくれたまえ。座標がバレる。我々の開発したアイカメラなら大丈夫だ。眼球を魔導機械化する必要があるが」


「え、再生医療技術有るんですか?」


「ディンゴ氏から聞いている限りだと左肘から先が無いとか。それを治す再生医療はない。ただ身体改造技術は高いレベルで持っているだけなのだ、済まないな」


「おれぁ、ガチガチにチューンされてるんだぜ」


 そう言って腕を360度ぐるぐるーと回すディンゴ。なるほど超巨大戦艦の前に自分を改造することで信頼を得たのか。


「うーん、アイカメラにはスキル乗らないですよね?」


「現状はまだ乗らない」


「じゃあアイカメラにするのは無しですね。目にもスキルって有るので。アキちゃんを遊ばせてきます。それじゃ後の相談はお二人で」



 というわけで私たちは外に出て中央公園で遊ぶことに。

 といっても主役はアキちゃん。市民の皆さんは本物がいることに最初は怖がっていたけど、アキちゃんの天真爛漫さに少しずつなれていき、最後はみんなでワイワイと遊んでた。


 数千人が。そう、数千人がアキちゃんと戯れたのである。規模が違う。アンチアキちゃんなんてここには存在しない。お前らがアキちゃんだ!


 私はライドしている人だからさほど人だかりが出来たわけではないけど、榊雪菜と知っている人からは、本を読ませてほしいとせがまれたよ。

 厳しい環境で本がない状態らしい。

 TSSに本を持ち込むのって著作権ガードが働いて無理なんだよね。私は著作権者だから大丈夫なんだけど。榊ヨネダ出版は私が社長なんだけど、私の書籍管理に特化してるからなーちょっと今回は使えない。


 ディンゴとアキちゃんに30日くらい待っていて貰えるように話し、一度ログアウトする。

 ログアウトしたら私の自室。即座に緊急メールを打つ。相手は世界各地の出版社だ。私にだけ10冊の本をTSSに持ち込んでも良い契約を提示したのだ。さすが世界4位の資産家。いや、最近3位になりましたね。


 そしてすぐに自宅のマシンでダイブする。私専用のマシンだから一度電脳世界エントランスに入ることなく即座にダイブ出来るのだ。速攻執筆カフェにダイブし、執筆を開始する。図鑑を作るのは無理でも、お話を作るのなら任せろ!


 きっちり2年書いて100冊書いた。凄い集中力だった。ま、これが出来るから世界3位の資産家なのだ。今回はこれを同じ執筆カフェにいる編集と校正さんに送る。初稿じゃなくて本にするからね。

 諸々の作業を終えて本になった92冊を(8冊没になった)データチップの中に入れ、執筆カフェを後にする。


 現実世界。数社からメールが返ってきている、どこも請求額が高いが別にどうってこと無い。図鑑と辞典は手に入ったな。

 あれ、現実に返れば本読めるじゃん……TSSじゃなくてもいいじゃん……と気がつき全部キャンセルしようとするが、あ、生まれた子どもは現地人じゃん、現実があそこじゃん、と思い直しそのまま契約を実行する。

 データを送るの遅いと支払いも減らすと脅しただけ有って動きは速かった。


「よし、揃った! 待ってろ、外地のみんな!」


 そしてTSSにダイブ!


「たっだいまー何日経った?」


「おう雪菜か。もう超巨大戦艦で帰る所だぞ」


「え、格好時間経ってるじゃん。ちょっとまって、ここの人に贈り物があるの」


 そういってオラザルさんと面会し、本92冊、図鑑5冊、辞典3冊が入ったデータチップを渡す。


「ここには文化が足りないと思ってさ、頑張って作ったり交渉したりしたから貰ってよ」


「雪菜殿……ありがたく頂こう。このデータは外部に漏らさないと約束する。雪菜殿は私たちの仲間だ、何かあったら何でも言ってくれ、力になろう」


「うん、再生医療はどこが強いかな?」


「ああ、そうだな、話していなかった。レングスの外地だ。魔導機械での再生だが再生できる範囲が広く、いくらか魔力を通せる。スキルが使えるはずだ」


 またレングスか。今回はレングスに縁が深いね。


 オラザルさんから紹介状を貰い、超巨大戦艦でカリダリの外地を後にする。なんでもあの後方にも街があって都市があるそうだ。外地ってすげえデカいんだね。


『がらんごろーん』


 突然神社の鐘が鳴ったような音がしてドラムロールが回り、久しぶりに大ミッションが提示された。突然だな本当に。


「えーと、『再生しろ』だってさ。したいわ本当に」


「今回なんで回ったんですかね、私回してませんよ」


「バグが治ったんじゃない? 死んだときに壊れたんでしょ」


 なんだかなーと思いつつ超巨大戦艦の光景を楽しむ。

 でかい! とにかくでかい! 進むスピードは遅いけどその分迫力が増すってもんよ!


「ドティルティを経由してジダンへ帰るぞ。ドティルティには実は外地はない、ただの外地合同訓練キャンプがあるだけだ。あそこから帰ることでカリダリ外地の生産物を偽装してるってわけさ」


「へー。レングスは何作ってるの? アマールは話出てこないけどやっぱりないの?」


「レングスは超巨大空母だな。こっちにも話つけてあるから今度行こう。アマールは潜宙艦だ。潜水艦みたいな物で、潜宙艦をばらまかれると巨大な戦闘艦は出せなくなる。大体の潜宙艦は戦艦を一発で大破させるくらい強烈なミサイル積んでるからな……」


 この後も軍事的な話題をべらべらと喋り、私も軍記物や仮想戦記物を書くから軍事知識有るんだよなーきもいなーこのおっさんと思い、アキちゃんは「うるさいですこのおっさん、きもいです」とブツブツつぶやきながらの帰還であった。


 さて帰って参りましたジダン。超巨大戦艦どこに止めるんですかね? 今までの4層? それともそろそろ上がるって言っていた5層かな?


「へへへ、雪菜、ありがとうな。これから帰る場所は6層だ! 俺たち『アキちゃん同盟』は以後世界を調停する存在となる!」


「へーすごい。んでなんで私はお礼言われるの」


「ぜんぜん凄いと思ってねえのな。お前の本の印税とアキちゃん関連の税金を何年も貯めて超巨大戦艦と超巨大空母を買ったからだよ!」


「そっか。じゃあ今日も3冊卸して帰るわ。オットーさんにも渡さなきゃな」


 お前巨大戦艦とまな板の良さをわかってねえ、全然わかってねえなどと言われつつ6層に帰還。土地は無事に買えたので私も6層に家建てよ。買えた土地はとーっても広いからいろいろ施設作ろうっと。


 左腕の再生するために今度もディンゴと外地に行くことになりました!

 場所はレングス外地! 嫌な場所だ。

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