第9話 回復と毒とドクニシキ

 水の精霊、ウンディーネ。

 身体が液体で構成されており、全員が女性。とても麗しい姿をしている。

 温和な性格であり、水魔法の扱いに長けるのを生かした生活をしている。

 綺麗な水の元で暮らしており、人目には殆どつかない。


「死にそうやんけ」


 目の前に現れた10体くらいのウンディーネさんは、どの方も体液が黒くなっており、とてもじゃないが健康とは思えなかった。


「敵意がなければフルケアしますけど、いかがですか?」


 アキちゃんがそう言う。まあ、我々に警戒は一切していないので仮に敵意があっても殺す気はなさそうだけど。


「私たちに敵意はありません。ただこの湖を綺麗にしていただいたお礼を申し上げに来たのです」


 可愛い声をしておる……。


「とりあえず元気になりましょ。アキちゃんフルケアをお願い」


「はーい。範囲フルケアー」


 回復系最上位魔法フルケアを掛けられたウンディーネさんたちは一発で元気になった。やっぱ効くねー。


「ありがとうございます! これで少しは生きながらえます」


「なんか悲観的だねえ。湖が凄く汚れていたからしょうがないか。あれじゃウンディーネは生きていけない」


 ひときわ大きなウンディーネが前に出てくる。長老的立ち位置の人とのこと。


「そうなのです、大体60日ほど前、この湖に流れてくる山の水が汚れてしまいまして。汚れだけなら浄化できますが、毒まで流れてくるようになってしまい……さすがに毒は」


「汚れも毒も見当はついているの? 単純に山の水を遡上すればわかる?」


「山の水が原因なのはわかっておりますが、汚染濃度がキツくて近づけないのです。申し訳ありません」


「ふーん。んじゃ山を登るか。ちょっと原因突き止めて直してくるね」


 ざわつくウンディーネたち。いきなり来た人間が助けてくれるってんだからびっくりすらぁな。


「なになに、自然の保護者であるウンディーネさんが困ってたら助けるしかないでしょ。いってきまーす」


 嘘である。実際はウンディーネを助けろって大ミッションに提示されてあるからである。

 いや、本心で助けようとは思ってたけどさ。


 山は湖に対して川の反対側にあるので、ウンディーネさんにその裾野まで運んでもらう。

 うひょーおっぱいぷるんぷるん! ほわほわのぷるんぷるんでっせ!

 そんなことを思ってほくほくしていたら、怪しんだアキちゃんに心を読むスキルを使われて、スキル「ハリセン」で頭をパーン! された。ごめんごめん。


「それじゃ登っていこうか。川の水には油が浮いてるね。滑りそうだから川の横を通りましょ」


 川の横にも油が結構付着していて滑りそうな気配。

 でも私とアキちゃんは良いブーツを履いているから滑らない。

 と思ったらアキちゃん滑った。


「わ、アキちゃん滑った。登山用のスキルもあるだろうに滑ってやんのプスークスクス」


「そ、そんな。ひどいです、う、う、う、うわーんわんわんわん!」


「あはは、ごめんごめん。カザリンはもう3回滑ってるもんね。まだ1回目だよね」


 スキルがあっても、滑らないための足の動かし方、体重移動の仕方などを知っていなければ滑っちゃうもんである。アキちゃんは経験が足りず能力を持て余しているのだ。


 ちなみにこっそりライドしているのでライドのコメント欄は大盛り上がりである。投げ銭もいっぱいだ。


 中腹に向かうころに強烈に毒がばらまかれている場所に遭遇した。空間にまで毒が蔓延している。

 アキちゃんに範囲キュアをしてもらい毒を除去。素早く原因へと突き進む。

 川の真ん中に紫のレンコンの食べる部分だけ、みたいな変な植物を発見。臭いのなんか全く気にせず飛び込む。


「アイテム鑑定。この植物はドクニシキだ。毒素の原因かな。レベル上げて詳細を調べてみよう」


 オーバードライブレベル2を使用し、アイテム鑑定レベル7にして鑑定。


「熱帯雨林やジャングルの奥地に生息する希な植物で、自分の周辺に毒をまき、死んだ動植物を溶かして栄養にするみたい。こんなところに生息するなんて明らかにおかしい」


「毒の原因はこれで間違いなさそうだぴょん。どうやって処理すれば良いんだぴょん」


「ぴょん子を生け贄に捧げる」


「ぶっ飛ばすぞ」


 冗談冗談。顔がパリピじゃないですよーぴょん子様ー。ほら、笑顔笑顔。


「根っこが本体で、根っこを全部取り除くか根っこの毒を全部ぬけば良いみたい。毒から身を守ってる酵素で自分を攻撃しちゃって、自己崩壊を引き起こすんだってさ」


「それじゃあ範囲キュアしますねー。ご主人様ごとー、はんいー、きゅあ!」


 紫色だったレンコン(食べる部分)が黄色に変色する。

 そして瞬く間に赤色に変わり、青色へと変貌していく。

 最後は白色になって崩れていった。

 枯れたっていうよりも、やられたっていう感じがしっくりくる。


「これで大丈夫でござるな」


「根っこが残ってるとそこから再生しちゃうから、ターゲット設定してレーダー走査で索敵して、完璧にいなくなるまで浄化しちゃおう。アキちゃんやり方わかる?」


「わかんないです、ふぇーん」


「ええと、探感知を発動してレーダー走査させるでしょ、そしたら死骸をマークスキルでマークして、MAPスキル開いて、今なら探知モードに入れるでしょ、で、マークのみでフィルタリングして」


「はい、はい、こうかな。あ、出来ました! まだ地下に残ってます。どうすればいいでしょう」


 どうしようかな。魔法の射程を伸ばす物は……。


「やっと出番が来たぴょん。あたしが魔力にバフを掛けるから、それでなら多分届くぴょん」


 おお、凄いぞぴょん子。ただパリピなだけだと思っていたけどそうでもないんだな。ただ飯食べていたわけじゃないんだ!


 なんかぴょん子に蔑むような目をされつつ思い切り睨まれたけど、無事に魔力が増加して範囲が拡大しドクニシキを完全に駆逐できたよ。


「これで毒と汚れの内、毒は処理できましたね、ご主人様」


「そうだね、汚れは動物の行為だろうから気を引き締めないとね」


 このヌルヌル、最初は油って判断したけど、油じゃなくて脂かもね。


 さ、山登り再開しますか。気をつけながらね。

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