関颯太・十一月 第三水曜日

 恋心がどういうものかを図るには、あまりにデータが少なかった。

 その全てが美しく感じられて、一つ一つが全て心を擽って、例えばそれは尊敬に値し、例えばそれは家族に対する信頼に近く、例えばそれは性欲に似ていた。

 全て知りたくて、全て教えたくて、何も知られたくなくて、何も知りたくなかった。

 隣を歩きたくて、一緒にいたくて、会いたくなかった。

 考えれば考える程に心はむしばまれて、でもそれがどこか心地よくて、考えないなんてことはできなくて。

 大嫌いで、大嫌いで、どうしようもなく、憎くて、妬ましくて。



 大好きで。



 僕のことを好きだという人は何人もいた。それは今も変わることは無かった。恋人もその中の一人だった。

 彼女の気持ちを理解してみたくなった。

 恋人のことは、それが恋心かどうかなんて分からないし、しずくさんに対する想いと比べればそれは全く別のものだった。

 ただ、好きであることに間違いはなかった。

一緒にいて、居心地が良かった。思い出もあった。情もあったし、身体の相性だって良かった。

 一人ずつ、関係を断った。

 連絡先が段々と減っていくたびに、恋人の時間は増えた。

 嫌ではなかった。むしろ――


 思えば僕は、焦っていたのかもしれなかった。周囲の人間は恋愛にうつつを抜かし、幸せそうに微笑み、僕はただ自分の為だけに時間を使った。

 寂しい人だと言われた。唯一の欠点だと罵られた。あることないことを噂にされた。それなら真実にしてやろうと思った。

 もしかしたら、焦る必要なんてないのかもしれない。人を好きになるのに、努力なんて要らないのかもしれない。

 いつか本当に誰かを好きになれたら、この感情が分からなくても、恋心が分からなくても、曇りなく愛せたなら。

 僕はきっと。




おわり

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