松下しずく・十一月 第三水曜日

 単位に余裕はあったから、心惜しいけど二限の一般教養科目の授業は履修放棄した。

 システムは知っていたけど使ったことは無かったから、多少の迷いはあった。それでも、どうしても授業に行く気にはなれなかった。二回、サボる形で授業に出ることを放棄して、それから教授にメールを送った。

 さすが一般教養と言うべきか、もっと何か理由を聞かれたりとか、さらには呼び出されたりとか何かするんじゃないかと思ったら、たった一通のメールで受理された。

 脆い、そう思った。

 あまりにも、簡単だった。

 私は今、優香が紹介してくれた男の人と付き合っている。

 良い人だ。今までとは違う。

 彼女は合コンの次の日、酔いが完全に冷めて自分が何を言ったか思い出したらしく、命まで捧げる勢いで謝ってきた。

 私は別に、優香のことを恨んではいなかった。

 どうせ、いつかはバレていたことだ。

 それにおそらく、隠すにはあまりに普通のことだった。私と、優香にとって。

 私が颯太君のことはもう諦めると伝えたら、優香は本当に申し訳なさそうな表情と共に「そっか」と言って、それからこう言った。

「勝手なのは分かってるけど、これは私の気が済むからってだけだけど、何かしてほしいことがあったら何でも言って。私にできる事なら」

 彼女が望むなら、そうした方がいいと思った。数少ない「二人きりで飲みに行ける友達」が減るのは私も嫌だったから。

 結局、私は悩んだ末に良い人がいたら紹介して、とだけ言った。

 優香は人脈が広かったから、そう言う人はすぐに見つかった。

 辻君は本当に良い人だった。良い人すぎて、不安になるくらいには。

 きっとあと数か月も経てば彼のことは忘れられる。辻君が、忘れさせてくれる。たった二週間の恋は長い人生に比べればあまりに短く、記憶に残るにはあまりにあっけなかった。

 だから今は、頑張らなきゃいけない。

 自分のために。今はまだ分からない本当に好きな人の為に。

 自分を愛せるように。

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