第44話 彼は彼女たちと夏の思い出を作る

 真緒との海岸でのランデブー(鈴音曰く)は海の家に戻った後叶奈たちにも程なくしてバレて、それはそれで一悶着あった。

「おねーちゃん、森本くんに変なこと吹き込んでないよね?」

 と、鈴音がジト目で真緒に詰め寄ったり、

「つーくん……もしかして、年上の人がタイプなの?」

 と、叶奈が半泣きで司を問い詰めたり……ともかく、叶奈にも鈴音にも司と真緒のツーショットは不安なものに思えたようだ。

「ふふふ、鈴音ちゃんの大事なお友だちくんですもの、ご挨拶していただけよ?」

「本当にそれだけだよ。あと、叶奈、伊月さんのお姉さんにはお付き合いしている人がいるから僕とどうこうなったりはしないよ」

 鈴音は「本当に?」と訝しんでいたが、叶奈は真緒に彼氏がいることで安心したのか、「なんだあ、そっか」とあっさり納得した。

「それに、ランデブーって言ったら叶奈と伊月さんだってそうじゃない」

 司が指摘すると、途端に叶奈がおろおろして、

「わ、わたしたちはただ気分転換にお散歩してただけだよ。ね、鈴音ちゃん」

「うん。森本くんってば叶奈ちゃんほったらかして他の女の子のところに行っちゃうから、あたしがすかさず攫っただけだよ」

 鈴音がにやりと笑って叶奈の腕にしがみついてみせる。「言い方が大げさだよ」と言いながらも、叶奈は狼狽えることなく鈴音のスキンシップを受け入れている。どうやら、『サマニジ』でスキンシップをとることに慣れたようだ。


(あ〜、ありがたい。夏はやっぱり恋の季節、距離がバグるの早くて助かるなあ)


 司が内心ヨダレを垂らしつつ、二人のスキンシップを見守っていると、貸切になった海の家に来訪者が現れた。

「やあ。私たちも君たちの親睦会に参加させてもらってもいいかな」

「あ、生徒会長さん、と……」

 叶奈の声に戸惑いが混じり、その続きを告げることなく消えてしまった。

 無理もない。涼しげな表情の生徒会長に対し、その隣で彼女にしだれかかっている副会長は完全に魂が抜けているからだ。頰を上気させ、つり目はあらぬところをぼんやり見上げているが、辛うじて彼女が幸せそうであることは分かる。きっと生徒会長とよろしくしたんだろうな、と司は内心親指を立てた。

「一途とバーベキューの材料を買いに行っていたんだ。私の奢りで一緒に食べないかい?」

「え、いいんですか?」

「もちろん。せっかくこうして集まることができたんだから、夏の最後の思い出を作ろう。ここは学校じゃないから、私のことも一途のことも生徒会長、副会長だと思わずに、同世代の友人として接して欲しいな。ね、一途」

 縁が微笑みかければ、一途が甲高い声で「ひゃい」と返事をする。一体どんな百合百合しいイベントがあったのか非常に気になるところだが、一途がこの様子では詳細を聞き出すことは難しいだろう。

「ん〜、お肉もいいけど、パンも焼きたいかな〜、焼いてもいい?」

「ふふ、いいよ。サンドイッチに使おうと思って持ってきたフランスパンもあるから」

「それならわたしも、マシュマロ焼きたいです!」

「あら、何でもありなのは楽しそうねえ。せっかくだから、いろんなものを焼いちゃいましょうか」

 各々の主張もあり、何でもありバーベキューが急遽開催されることになった。



 縁が持ってきたバラエティー豊かな食材と「アルバイト代」という名目で海の家から提供された海鮮類によるバーベキューはどれも美味しく、話とともに箸が進んだ。

 合宿で面識のあった鈴音はともかく、叶奈は生徒会の面々とは初対面であったためか、最初は小さくなっていたが、気さくに話す縁に心を開いたのか、楽しそうに会話をしていた。

「会長さんもそのプロティン愛用してるんですね!」

「うん。趣味で色々集めたり試したりすることが好きなんだ。バスケも、山内さんほどじゃないけどそこそこかじっていてね。今度一緒にやってみないかい?」

 共通の趣向である運動で盛り上がる二人と、そんな二人を前にしても相変わらず腑抜け状態で縁からマシュマロを食べさせられている一途を横目に司がもくもくとトウモロコシをかじっていると、不意にポケットに入れていたスマホが振動した。


『ちょっと抜けて話できる?』


 短いメッセージの主は、司の正面でパンを頬張る鈴音だった。スマホを弄る彼女は司の方をチラリとも見なかったが、司が「了解」とメッセージを返すと、すくっと立ち上がった。

「お手洗い行ってくる〜」

 そう言い残してそそくさとその場を後にした鈴音を見送った後、司も親から連絡が来たフリをして、自然とバーベキューの会を抜け出した。

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