第25話 エルサの下着
刹那は五つ星ホテルのチケットと案内状を、エルサはティッシュ4箱を受け取りボロアパートに帰還した。
何と言ってもプラチナチケットがあるので、そのまま各々の部屋に解散ではなく一度俺とエルサの部屋に集まった。
机に案内状を広げて乗せ、みんなで確認する。
「えっと、チェックインが来月の23日、チェックアウトが25日か」
現在は11月。つまりホカンスはクリスマスど真ん中ということだ。
クリスマスに五つ星ホテルでホカンスかぁ。ちょっとエルサといい雰囲気になっちゃったりして……。
「何ですかハルト様。視線がいやらしいですよ」
「い、いやらしくなんかないわい!」
図星だったので返答につっかえてしまった。
案内状には写真もついていたので、刹那はジッとそれを見ていた。
写真に写る部屋やレストランはまさに絢爛豪華。こんなボロアパートとは天地の差だ。
「五つ星だけあって素晴らしい部屋だな」
「あぁ。これが1人ひと部屋なんて贅沢な……ん?」
「どうしました、ハルト様」
「いや、よく見るとこれ……3人でひと部屋じゃねぇか!」
「な、なぬっ!?」
「ほぅ」
刹那は驚愕し、エルサは何か考え込むように顎に手を当てた。
3人でひと部屋? ベッドの数は2つ!? おいおい、どうなっているんだ!
「晴人、恐らくだがこれは家族で行くことを想定しているぞ」
「そういうことか。いや、普通こういうのってペアチケットが当たり前だと思っていたから何かおかしいなとは思っていたんだ」
ただのプラチナチケットではなく家族チケットだったわけか。スーパーの福引きだから今となっては納得できる。
ベッドはダブルベッドが1つと、シングルベッドが1つの構成だった。
「まぁエルサと刹那が一緒に寝ればいいか」
「ちょ、ちょっと待て! 我と白銀の魔女が一緒に寝るのか?」
「そりゃそうだろ。それが普通だ」
「ハルト様、わたくしとハルト様の2人でよろしいのではないでしょうか。それでいつも通りです」
「え……うわっ! この部屋ベッドが一つしかないではないか!」
刹那は今さらこの部屋のベッド数に気がついたらしい。
できればバレたくなかったけどな。なんか変な誤解を生みそうだし。
「刹那、勘違いするなよ。変なことは起こってないから」
「えぇ。ハルト様が毎朝わたくしの胸を凝視してくるくらいです」
「け、ケダモノ! 晴人のことは信じていたのに!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいごめんなさい」
見ているのはマジだから否定できなかった。
くそう、男の本能が情けない!
でもさ、弁明じゃないけどさ、目の前におっぱいがあったら見ちゃうって。起きがけのモワモワした時間に、好きな女のおっぱいが目の前にあるんだぞ。
「見てください刹那さん。これがケダモノの顔です」
「うむ。普通に軽蔑だ」
「いや本当に、もう許してください」
楽しいホカンスのミーティングだったのに、なぜか俺への罵倒大会になってしまった。M気質だったら大興奮だね。
あいにく俺はM気質ではないので、心臓をナイフで抉られる思いだった。
「エルサさんが晴人と寝たいのなら止めぬが、どうするのだ?」
「わたくしがハルト様を引き受けましょう。もしかしたら刹那さんを襲ってしまうかもしれません。それを抑止できるのはわたくしの強さのみです」
「なるほど」
「何がなるほどだよコラ」
言いたい放題言いやがって!
毎朝胸を見ているのは事実だからバツが悪いけど、襲う・襲わないに関しては事実無根だぞ!
「では気を取り直して、ホテルの施設などを見てみましょうか」
「うむ。カジノにバー、温水プールとサウナ付き温浴施設に各種スパマッサージ! 最高級レストランもついておるぞ」
「なんか別世界すぎてイメージ湧かないな」
2泊3日で全部楽しめるだろうか。
スーパーの予算は限られているだろうから仕方ないけど、さらなる贅沢をいえば4泊くらい欲しかったな。
「大きなバルコニーもあるのですね」
「ん? エルサは景色が好きなのか?」
「いえ。ただ喧騒に疲れたらここに逃げてもいいな、と思いまして」
確かにどこも賑やかで、心が落ち着く場所は少なそうだ。
でもバルコニーなら開放的で静かになるし、逃げ場所としてはもってこいだろう。……俺もまたコイツらに責められたら逃げ場所にできるな。
まだまだ注目できそうなところはあったのだが、唐突にエルサが案内状を取り上げた。
「どうした? 何か気になることでもあったか?」
「いえ。ただここから先は行ってからの楽しみでいいでしょう。最低限の情報は入手しましたからね」
「まぁ確かにそうだな」
エルサのひと言でミーティングは終わり、刹那は自分の部屋へと帰っていった。
帰り際にベッドを二度見くらいされた気がする。くそ、この疑いはずっとかけられ続けるんだろうな。
それにしても今のエルサの行動、もしかして……
「なぁ、エルサってこのホカンスめちゃくちゃ楽しみだったりする?」
「そう見えますか? まぁ楽しみであるのは事実です。別に感情が揺らぐほどのことでもありませんが」
「そうか。エルサは本当に感情が揺らがないな」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてないぞ」
本当に褒めてない。心の底から感情を揺らせと思っている。
……そうだ! 荒療治にはなるが、脇腹でもくすぐってみたらどうだ? そうしたら人は笑うはずだ!
幸いにもエルサは今おとなしく座っている。チャンスだ!
俺はそっとエルサの後ろに回り込み、そして大胆にエルサの脇腹を触ってみせた。
え……柔らかい。ってかこれくびれか!? スタイル良すぎるだろ。
ってそうじゃない! 手のひらに伝わるエルサの肌感に満足するな! くすぐれ!
指をワシワシと動かすと、エルサの身体が跳ね……ることはなく、普通にサファイアの視線をこちらに向けて睨んできた。
「ハルト様、何のおつもりですか?」
「いや、こうすれば笑うかな、と」
「はぁ、主人がこうもバカだと先行き不安ですね」
「ぐっ……」
まだだ、ここで諦めてなるものか!
俺はエルサを強引に倒し、細く美しい足をホールドした。
「どうだ! 足の裏ならくすぐったいだろう」
得意げになってエルサの顔を見た瞬間、自分が何をしているのか気がついた。
エルサは今メイド服だ。つまりスカートである。
それなのに俺は今、足裏をくすぐっている。そう、下着がモロに見えてしまっていた。
「あ……」
下着と一緒に見えてしまっているものがある。そう、チェーン付きクナイだ。
エルサは何の躊躇いもなくクナイに手をかけ、俺に向けて発射した。
そこからの展開は詳しく言うまでもない。ただ飛び散った血や脳みそだったものたちを拭き取るのが大変だったよ。それだけだ。
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