第24話 1等を掴め
ん? エルサのやつ少しだけ歩くペースが早い気がするぞ! ちょっとワクワクの感情出ているんじゃねぇか?
「ハルト様遅いですよ。2kgのお米くらいでへばらないでください」
「いやいや、エルサが速いんだって。いつもより浮き足立っているぞお前」
「……そんなわけありません。そんな感情、とっくに捨てさせられましたから」
嘘つけ。
感情なんて、簡単に捨てられるものじゃないはずだ。
現に、エルサは速足になっているしな。
何とかエルサに離されないようについていくと、賑わう抽選会場にたどり着いた。
この時間帯だからな、ほぼ主婦層だ。
中には外国人もいて、店員側にも英語で対応するためか金髪の外国人店員がいた。研修中ってプレートが付いているから、このためにアルバイトとして雇ったのだろうか。ともかく、スーパーの抽選会にもグローバル化の波が押し寄せているみたいだ。
みんなは何を狙っているのだろうか。というか何が景品なんだろう。
抽選会場の前にチラシが貼り付けられていた。そこにはこう記されている。
1等:5つ星ホテル2泊3日 3人チケット 1口
2等:40インチカラーテレビ 1口
3等:2万円分商品券 3口
4等:醤油・味噌セット 30口
5等:500円分商品券 100口
6等:ティッシュ
「なんか1等が凄すぎて他が霞んで見えるな」
「だいたいそんなものですよ」
そんなものなのか。
抽選箱は木でできていて、持ち手を回すと玉が出て、その色によって当選がわかるタイプだった。
1等が金色の玉で、2等が赤、3等青で4等緑、5等が黒で6等が白とのことだ。
「結構待つな……」
「それ、あるあるですよ」
「どういうことだ? 待つことがか?」
「いえ。女性が並んでいる最中に男性が文句を言うのがあるあるです」
「べ、別に文句を言ったわけじゃ……」
でも確かに子どもの頃、父さんがこういう並びに文句を言っていた気がする。そんで母さんが怒ってたっけ。
あんな風にはなりたくないと思っていたが、年齢を重ねると父さんに近づいていくのが男ってもんなのかもな。あーヤダヤダ。
「何に思いを馳せているんですか?」
「え? いや、何でもない」
こんなぼやき、少なくとも今するべきじゃないよな。
エルサは今、数少ない趣味に打ち込んでいる時間なんだ。それを邪魔してはいけない。
「ハルト様、そろそろですよ」
「おっ、いよいよか」
目の前のおばさんが引き終われば次は俺たちだ。
おばさんも俺たちと同じく5回引くらしい。
「こういうのって目の前でいい賞引かれたりするよな」
「ハルト様、フラグの建設はおやめください」
「悪い悪い。でもそんなの回収なんてされな……」
「大当たりー!」
「えっ!?」
店員さんが大声で叫んだ。
まさか、一等賞取られたか!?
「2万円分商品券です。いつもご愛顧いただきありがとうございます」
「あらあら、嬉しいねぇ」
……なんだよ、ビビらせやがって。
でも3口の景品を当てているんだよな。ならまぁ大当たりと言っても間違ってはいないか。
「次の方……おっ、メイドさんじゃないですか」
「どうも」
おばさんが引き終わり、俺たちの番になった。店員さんはエルサのことを常連と認識しているようだった。
まぁ、週に2、3回そのメイド服で来られたら印象強いわな。
エルサは補助券50枚を店員さんに渡した。店員さんは慣れた手つきで10枚ずつに分ける。
「5回ですね。じゃあ1等目指して頑張ってください!」
「はい」
エルサは無表情でガラガラと回し始めた。未だかつてこんなつまらなさそうに抽選する女がいただろうか。
最初の玉は白。次の玉も白だった。
「ティッシュばっかりだな」
「これではハルト様が枯れ果ててしまいますね」
「うーーーーん」
反応に困るわ。公共の場だから大声でツッコミにくいし。
3回目も4回目も白い玉で、もう当分の間はティッシュに困らないことが確定してしまった。
ラスト1回残しているところで、エルサは俺の方を向いた。
「ハルト様、回してみますか?」
「いいのか? エルサの趣味だろ?」
「たまには当ててみたいですから」
「まぁそれならやってみようかな」
まぁ誰がやっても一緒だと思うが。
ガラガラと音を立てながら回すと、白ではない玉が飛び出してきた!
赤色だ。赤って何等だっけ。
「大当たりー! 2等、40インチのカラーテレビです!」
げっ! 大当たりだけど大外れのカラーテレビじゃねぇか!
後ろのお客さんたちから「おー!」という歓声と、ほんの少しの舌打ちが聞こえてきた。
どうするんだよ、これ。なら3等の2万円分の商品券の方がよかったな……。
「ハルト様の運は流石ですね」
「それ褒めてる? 皮肉?」
エルサは俺の問いに答えなかった。
「お客さま配送の事務作業がございますのでお隣の机にお願いします」
「あ、はい。わかりました」
仕方ない、カラーテレビは質屋にでも売るか。そうすりゃ数万円は手に入るだろ。
名前や住所を書き込むために隣の机に移った。
さぁて書こうかとペンを持ったとき、隣の抽選会場で高笑いが起きた。
「ふっはーっはっはっ! 我の闇の力が最狂の褒賞を呼び寄せたようだ」
高笑いをしていた人物は長い黒髪を激しく揺らす動きをしていた。
もう、瞳の色を確認するまでもないな。
「刹那!?」
刹那がガラガラ音を立てる機械から出していた玉の色は金! 一等賞だ!
「晴人よ、筆頭眷属でありながら我が後ろにいるのに気が付かぬとはいい度胸であるな」
「刹那、エルサもいるぞ」
「ひぇ!? ど、どうもこんにちは」
エルサを見た瞬間に刹那は態度を変えた。
それにしても1等賞を当てるなんてとんでもない運だ!
そういえば刹那、就活全落ちしたり命を狙われたり配信業をやめざるを得なかったりで散々な人生だったんだよな。
じゃああれか、確率が収束したわけか。にしても失うものが多すぎる気もするけど。
「おめでとう刹那。五つ星ホテル、楽しんでこいよ」
「む? 何を言っているのだ晴人は」
「ん?」
「3人で行けるのだぞ。当然お前も来るのだ」
「え、ええっ!? 連れて行ってくれるのか!?」
「当たり前だ。我にはともだ……け、眷属はもはやお前だけだからな!」
「ありがとう、助かるよ刹那!」
「う、うむ。顔が近いぞ晴人よ」
「ハルト様、顔が近いですよ」
「わ、悪い。でもエルサ、ちょっと力強い。鼻もげる。マジで」
刹那から引き剥がそうとするエルサの力はまるで熊の如し。もげたり裂けたりしそうだ。
「ふふふ、晴人には命を救われたのだ。これくらいでは恩を返すことはできぬ」
「いやいや、十分すぎるって。やったなエルサ、俺たちホテル行けるってよ!」
「は、白銀の魔女も来るのか」
「ん? 刹那何か言ったか?」
「べっつにー」
何だろう、刹那が頬を膨らませているんだけど。
何か変なこと言っただろうか。ただ純粋に喜んだだけなんだけど。
「じゃあテレビも貰うのは忍びないな。すみませーん! 俺たちテレビいらないっす」
「えぇ!? お客さまよろしいのですか!?」
「はい。1等も2等も俺たちのグループで掻っ攫うのはちょっと悪いので」
「うぅ……助かります。正直こんなに序盤に目玉が出ちゃったからどうしようかと思っていたんですよ」
店員さんは涙を流して喜んでいた。
でももうちょっと上手くやりなよ、とも思う。序盤は目玉商品が出ないようにするとかさ。まぁそれってよくないことだけど。
「よし、帰るか」
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