第21話 事件後に謎解き
「ふぃー、疲れた」
家に帰って鉄棒を投げた。これ携帯するには重いんだよ。
そんな俺を、エルサは不思議そうな目で見つめてきた。
「ハルト様、なぜ鉄棒をあの男に当てられたのですか?」
「刹那のおかげだ」
「あの女の?」
「もう薄々勘付いているんだろ? 刹那が狙われたってことは、刹那も特異体質者だ」
「いったいどんな……」
思い返せば色んなところにそのヒントがあった。
それが確信に至るのは、カルマーが襲ってきたあの瞬間だけどな。
「結論から言うと、刹那の特異体質は『相手の次の行動がなんとなく読める』だと思う」
「……まるで未来を見られているみたいで嫌ですね」
「面白い体質だと思うけどな。人間離れした俺みたいな体質よりよっぽど良いと思う」
「普通の人間から言わせてもらえば、どっちもどっちですよ」
チェーン付きクナイを寸分の狂いなく振り回す女が普通の人間とか言わないでほしい。
おっと睨まれた。こいつ、実は心の中を読める特異体質者なんじゃねぇの?
「どうしてハルト様は刹那の特異体質に気がついたのですか?」
「疑惑を持ったのは2点。まずは刹那の生配信だが、何か気がつくことはなかったか?」
「別に何も」
「そうだろうな。普段からSNSの生配信を見ていないと気がつけないポイントがある。それはコメントへの即レスだ」
「というと?」
「生放送中のコメント表示は少しだけタイムラグがあるんだよ。でも刹那にはそれがない、感じられない。まるでコメントが表示される前からコメントが見えているかのように配信していた。それがおそらくカルマーに見つかった理由だろうな」
「どんなコメントが届くか、事前にわかると?」
「というよりは、どんなコメントをファンが書くかわかるって言った方が正しいと思う」
微妙な差だけど、これは結構大きく違いがある。
刹那の特異体質は画面に反応しているのではなく、その先にいる視聴者に反応しているのだと思う。
「もう一つは刹那とエルサが出会う少し前のことだ。俺の家に尋ねてきた刹那を、俺は家に上げようと思った。そうしたらまだ何もしていないのに『待て。男の部屋に勝手に入るのは闇の力が使えなくなるから困る』って言ったんだ」
「ハルト様の行動を先読みした、と」
「そういうことだ」
ってか1週間前の中二病発言、今よりやばいな。エルサに出会って、恐怖心から変化したわけか。
刹那がこの特異体質を持っているのではないかと思った理由は他にもある。
例えば、ボウガン野郎がもう襲ってこないとわかって同居を拒んだこと。あれはボウガン野郎の次の行動が読めたからだろう。
後は刹那の家に行った時、インターホンを押す前にあいつはドアを開けた。俺の次の行動を読んだからこそだろう。
刹那の命を狙っているのがカルマーなのかアンチなのか判断するのに時間がかかったけど、これだけ証拠があったらカルマーが疑わしくなるよな。
俺は揃った情報を頭で整理して、大きなため息を吐いた。
「はぁ、敵が増えたもんだ」
「そうでしょうか? 長髪男は捕まりましたし、増えた敵は一之瀬星華だけでは?」
「いや、刹那の家に行った時に襲ってきたボウガン野郎と今回戦った長髪男は別人だ」
俺の言葉に、エルサはサファイア色の瞳を少し大きくした。
「……普通に考えたら同一人物なのでは?」
「俺は3日前、ボウガン野郎の右腕に鉄棒を当てている。最低でも骨にヒビくらいは入ったはずだ。それなのにあんなに刀を振り回せるか?」
「……確かに。不可能ですね」
「つまり刹那を狙っていたカルマーの殺し屋が2人いたってことだ」
「それはあり得ません」
俺の出した結論を、エルサはきっぱりと否定した。
「どういうことだ?」
「カルマーはターゲット1人につき、殺し屋も1人です。同一のターゲットを同時期に2人で狩ることはあり得ません」
「じゃああのボウガン野郎はなんで刹那の家に来たんだ?」
推測すらできないのだろう。エルサは黙り、その流れのまま俺も黙ってしまった。
考えても考えても、あのボウガン野郎だけは謎のままだ。
俺は床に大の字に寝て、諦めの声を出した。
「ダメだ、考えてもわからん」
「そうですね。ただもう一つ聞きたいことがあるのですが」
「ん? なんだ?」
「あの娘に連絡先を教えなかったのはその……そういうことですか?」
そういうこと? どういうことだ? と思ったがすぐに理解した。
「あぁ、もちろん刹那のスマホにはカルマーからコンピュータウィルスが送り込まれている可能性が高いと判断したからだ。メールの内容によっては俺の生存と住所がバレちまうからな」
「……もう結構です」
「え? なんで怒ってるの? なんで!?」
「怒っていません。わたくしには感情がありませんので」
「嘘つけ!」
エルサは少し不機嫌になった気がする。
女心、マジでわからねぇ。
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