第13話 闇がゴスロリでやって来た
第二章 新たな依頼人、刹那
一之瀬星華の件から1週間が経過した。
エルサの言う通り、ここまで魔の手が迫ってくることはなかった。
平和なことはいいが、ぼちぼち食費が間に合わなくなってきた。一之瀬星華からは前金の5万円しかもらっていないから、相変わらず財布の余裕がない。
「家賃、光熱費、水道代、通信費……この世には無くなったほうが幸せなものが多い」
「カルマーの力で消せと?」
「そんなことできるのか?」
「そんな訓練は受けていません」
「じゃあなんで言ったんだ」
この通り、エルサとの気まずさもかなり薄れてきた。
あれ以降、エルサが風呂に入っている間は心頭滅却するようにしている。煩悩退散だ。
そのエルサは洗濯物を干した後に正座になり、真顔で口を開いた。
「さてハルト様、本格的に金欠が襲いかかってきています。このままではカルマーに殺される前にハルト様は勝手に野垂れ死ぬことでしょう」
「もっと良い言い方できないの?」
「早く依頼を持ってきてください。営業は基本ですよ」
「営業ってなぁ、こちとら闇のアルバイトだぞ。自慢じゃないけど税金だって払っていない」
「最低ですね」
「お前もそれにあやかっているだろうが!」
その分、世界的にヤバめな組織と向き合っているのだから許して欲しい。
「営業して家がバレたらどうするんだ。ただでさえ一之瀬星華には近所ってところまで調べられたんだぞ。エルサも買い物行く時くらいメイド服を脱いだら……」
「嫌です」
「即答かよ」
なんでそこまでメイド服にこだわるのだろうか。
多分だけど俺たちがこの近辺に住んでいるとバレた理由、メイド服だぞ。SNSか何かで拡散されたんじゃないか?
俺の疑う目から逃げるように、エルサは今日もメイド服のまま買い物へ出掛けてしまった。
さて、俺もこのままダラダラ過ごしているわけにはいかないな。とはいえ何をすれば良いんだろうか。
SNSで呟けばカルマーに見つかる可能性が高まる。外を練り歩けば尾行されて家を突き止められるかもしれない。
…………あれ? 詰んでないかこれ。
ピンポーーーーン!
諦めた俺の目を覚ますようなチャイムが鳴った。
チャイムなんて珍しいな。ここは貧乏アパートを極めすぎて新聞の勧誘すら来ないってのに。
「はーい、何も買いませんよ」
俺がドアを開けると、目の前に黒髪の美少女が立っていた。
なぜか、指を大きく広げて顔を隠し、体を捻った謎ポーズをしているが。
「ふっふっふっ、汝が深淵で踊る闇か?」
「ごめんなさい宗教もお断りなんです」
「ちょ、ちょっと待ってよー!!」
そっ閉じしようと試みたがドアに足を咬まれ、退路を絶たれてしまっていた。なんて慣れた手つきだ。
「なんですか。そういう宗教に献金できる金……は……」
俺は追い払おうとした少女の容姿を再度見て、体に電流が走る思いがした。
濡れるような黒髪は、エルサの白髪と色は違えど並び立つほどに美しい。そしてなんといっても、とりわけ目を引くのが彼女の瞳だった。左目は茶色、右目は黄金色のオッドアイ。さらにいまどきラノベでもお目にかかれない、黒を基調としたゴスロリドレス。
見間違いようもない。この少女は……
「せ、刹那!?」
「ふん、やっと気がついたか」
大人気インフルエンサーの刹那だ。なんでこんなところに!?
まぁいい、とにかくここは目立つから部屋に入ってもらうか。
「待て。男の部屋に勝手に入るのは闇の力が使えなくなるから困る。闇は処女の血を欲するのだ」
なんだ藪から棒に生々しい話を切り出しやがって。
「手なんか出しませんって。ってかよく部屋に上げようとしたことがわかりましたね」
「お、男とはそういうものだからな」
ふんぞり返っているけど、それ偏見では? …………胸は小さめか。
まぁエルサが帰ってきたら安心して部屋にも上がってくれるだろう。それまでに必要なことは聞いておくか。
「では改めて、我は刹那。電信に乗り、狂乱の宴を届ける者!」
「そのノリずっとやるんですか?」
「汝は深淵の闇で踊る者で間違いないな?」
「深淵の闇で踊る……闇バイトをしているって意味ならそうですけど」
「ふふふ、どうやら運は我に味方しているらしい」
なんだこいつ。
配信で見ていた時は何ともなかったのに、いざ目の前にして会話のキャッチボールをしようとすると若干ムカつくな。
「ただいま帰りましたハルト様。…………ついにデリバリーに手を出してしまいましたか」
「ちょっと待て! 何を勘違いしているんだ!」
「そういうプレイでは? 日本にはコスチュームプレイというものがあると聞きました。オプション料金はいくらです?」
「話を勝手に進めないでくれるか!?」
「綺麗な人……」
突然現れたエルサに、刹那は見惚れるような顔になった。
さっきまでの中二病全開なノリはどこへ行ったのだろうか。まぁそれだけエルサが呑まれるほどに美しいということだろう。
「女性もいる。さぁ、上がってもらってもいいかな?」
「よ、よかろう!」
戻っちゃったよ。
顔見知り以外を部屋に上げる予定なんて無かったので、大慌てで座れるスペースを確保した。掃除はエルサがやってくれているが、狭い部屋という事実までは変えられない。
「お待たせしました。どうぞ」
「うむ。……質素な部屋だな」
悪かったな。
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