第7話 戦闘メイド、エルサ
星華さんの部屋で主人と依頼人を待っていると、やけに騒がしい音で階段を駆け上がる音がした。
「はぁ、はぁ……エルサさん!」
「おかえりなさいませ、星華さん。ハルト様からセクハラをされませんでしたか?」
「そんなことより、今ストーカーが外にいるんです! 晴人さんが対応しています!」
ほう、ストーカーとハルト様が。それはまた面白い展開ですね。
窓ガラスからそっと覗いてみると確かにハルト様は茶色いコートの男性と向き合っているようです。
「近頃は物騒ですね」
「い、いいんですか? エルサさんのご主人がストーカーをするような人と対峙しているんですよ!?」
「構いませんよ。それにわたくしはハルト様よりこの部屋を見ているように命令されておりますので」
「そんな……助けに行かないんですか!?」
「いちメイドに何ができるというのですか? それと星華さん、貴女はまるでわたくしが強いと確信しているような口ぶりで話すのですね」
「っ!」
星華さんの柔らかい表情が崩れた。
「なるほどなるほど、あなたは自由に表情を作ってもいいのですか。羨ましいことです」
「な、何を言って」
「いえ。わたくしは表情を殺すように、感情を無くすように育てられてきましたので」
「は、はぁ? こんな時に何を……」
「あなたと同じところで育てられたんですよ? カルマーの育成期間。アカデミーで」
「…………」
星華さんは無言で俯いた。
もはや否定もしませんか。
「いつから?」
「何がです?」
「いつからあたしがエージェントだと分かったわけ?」
口調、一人称も変わりましたか。
どうやら今までの態度は作ったものだったようですね。カルマーの得意分野です。
「わたくしはハルト様に1つだけ命令されていました。『部屋を見ておいてくれ』と。そうしたらほら、P88拳銃とは護身用にしては過剰な武器ですね」
隅々まで部屋を探した結果、一丁だけ拳銃が見つかった。
この拳銃は北欧にてよく採用されているハンドガンなので、わたくしにも馴染みが深いですね。主に銃口を向けられる側でしたが。
「信じらんない。人のプライベートを勝手に見る?」
「主人を守るためです」
「理由に……なってないじゃん?」
星華さんはニットからベレッタナノを取り出した。
「さすが、6発装弾の携帯性重視の拳銃ですね。気がつきませんでしたよ」
「強がっている場合ですか? エルサ先輩。この距離ならあたし、外しませんよ」
「撃てばいいじゃないですか。ただ……初撃で殺せなかったらどうなるかはあなたも知っているでしょう?」
部屋にしばし無言の時間が流れた。
わたくしの脅しにも負けず、星華さんはニッと笑う。
「そんなの初撃で殺せばいいだけじゃない」
パァン!
乾いた音が鳴り、閑静な住宅街を戦場に変えた。
射出された銃弾は……わたくしの前で無力に転がり落ちる。
「嘘!? なんで!」
「ふっ!」
「クナイか!」
わたくしはチェーンで星華さんの捕縛しようとするも、さすがの運動能力で回避されてしまった。あるいは、わたくしの癖を学習されていたのかもしれませんね。
「メイド服はチェーンクナイを隠せますから便利ですね」
「そんな使い方しているの、エルサ先輩くらいですよ」
「ずいぶんと余裕ですね」
「もちろん。まだ5発もあるんだから」
「カルマーで習いませんでしたか? 『武器に驕るな』と」
星華さんの持つベレッタナノの先端がこぼれ落ち、床でカランという情けない音を奏でた。
「そんな……」
「わたくしはチェーンクナイを2つ使います。ターゲットのことならもっと詳しく調べるべきでしたね」
「くっ……」
「逃しませんよ」
「うっ、ああっ!」
チェーンで星華さんの体を巻き付け持ち上げ、勢いよく窓ガラスにぶち当てた。その衝撃でガラスは割れ、星華さんは外の地面に転がり落ちていく。
「だから言ったじゃないですか。強化ガラスの方がいいって」
わたくしも星華さんに続いて窓から飛び降りた。
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