第43話サボってる?いえいえ戦略です



 再び、統制の取れた女子学生達に両脇を抱えられて舞台袖に戻される。


 音を鳴らさず歩くなんて芸当俺には到底無理なんで歩くたびにシャラシャラ鈴が軽やかに鳴り響く。



 今、舞台では大音量で踊り狂ってるウサギの着ぐるみがいるので大丈夫だろう。


 しかし、歩くたびにすれ違う人すれ違う人が驚いたように振り返るのは止めてくれ、おい、そこの電飾鈴のイカ、お前にだけはびっくりされたくねぇ、心外だ。



 でも、そんなに驚かれるような格好はしてないんだけどな。着ぐるみ着てるわけでも裸でもない。見た感じいたって普通なんだけどな。



 皆は曲が鳴る前に舞台中央に鈴を鳴らさないように歩いてスタンバイするけど、俺は曲が流れてから出る事にした。悪役令息は遅れて登場がセオリーだ、ふはは。


 誰もいない舞台に流れ始める曲に客席がざわざわし始める。



 さて、行きますか。


 全身の鈴をシャンと鳴らした。鈴が共鳴して一際大きく美しく鳴り響いた。



 客席が静まる。



 舞台へ踏み出した。堂々と背筋を伸ばし美しく歩む。鈴の音は俺の動きに合わせてシャラシャラと綺麗に鳴り響いた。


 焦ることなくゆったりと舞台に向かう。怯むな怯めば負けだ。



 執事に音を鳴らさず歩く歩き方を習った時についでに習った歩き方。美しく音を響かせながら頭のてっぺんから爪先まで神経を行き届かせて華麗に歩く。



 腰骨まで深く綺麗に入ったスリットから、深紅の上衣が、チラリと翻る。華が開いたように美しい。



 アレックスは折角綺麗に産まれたんだし、その長所を最大限に利用してやろう。



 舞台中央、正面を向いて一度立ち止まる。



 睫毛にのせたキラキラのビジューが照明に映えるようにゆっくり瞼を上げる。



 二階席にいるノワールと目が合った。ねぇノワール、俺の月華の舞い見たい?問いかけるようにいたずらっ子のように微笑む。



 ノワールが息を飲む。


 見てよ、練習の成果。誰かさん達に邪魔されて全く見て貰えなかったけど…。


 俺の月華の舞、ノワールに見て貰いたかったんだ。



 曲はちょうど前半の見せ場、ここからなら最後まできっちり踊りきれるだろうし。



 サボってる訳じゃないよ。これは悪役令息の戦略なのです、ふふん。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る