第39話ノワール



 リヴィエラ公爵から贈られた鈴飾り、嫌みなくらい鳴り響く鈴を制御するだけでも大変だった。


 それに加えて執事による暗殺諜報特訓に、広大なリヴィエラ公爵領を守る結界の維持、財務、会計、苦情処理、その他リヴィエラ公爵家の雑事諸々を命じられた。



 絶対にリヴィエラ公爵が夫人と過ごす時間を増やす為に利用されている。魔法玉を贈った事を後悔しながら、寮への帰途についた。久しぶりに見るアレックスが可愛くてたまらない。


 しかし、寮の部屋に入った途端執事に捕まった。どこからわいてきたんだ?



「ノワール君、私はね、君を買っているんだよ。きちんと筋を通したまえ。」


 どす黒い負のオーラがすごい。



 筋ね。あの鈴飾りをつけて無事踊りきるまでは、絶対に会わせないつもりだな。




 第一部華陽の舞。


ギリアム先輩とギルバートに挟まれて座るアレックスに胸が焦げ付いた。その場所にいるのは私だった筈なのに。



 裏で秘密裏にアレックスを狙う刺客を屠る。今日は少ない方だと呟いた執事に、ぞわっとした。


 アレックスは、いつもこんなに狙われているのか。


学園では安全に過ごせていたが、外部からの客の増える行事は危険なのか。



 自分の舞の直前まで働き詰めだった為衣装に着替える暇がない。執事に心の中で悪態をつきながら影が使う黒服の上から手早く鈴飾りを巻いた。


 練習時間は短かったのに、意識せずに歩いても鈴は鳴らず、身体は軽かった。


 


 アレックスはギリアム先輩と一緒か?見たくないな。あの世話焼きの先輩の事だ。なんだかんだいいながら、アレックスの髪を結ってしまっているかもしれない。


 でも、視線は観客席を見渡しアレックスを探していた。


 見上げた先、春の花の精のようなアレックスがいた。髪は無造作に流してある。髪は俺が結うという約束覚えていてくれた?



 私を見つめるアレックスから目が離せない。欲しい。その白い喉元に喰らいつきたい。まるで飢えた獣のようだと醜い自分に唾棄する。


 アレックスの瞳からほろりと涙が零れた。怯えさせたか。安心させるように微笑んだ。大丈夫だ。まだやれる。優しい友人のふりを頑張ってみせるから、だから怯えないで。私の隣で微笑んでいて。



 例え今諦めても10年後卑劣な手段で手に入れるなら、友人としつ油断していてください。卒業までに穏便に手に入れてみせますから。



 そんなに私を見つめるアレックスが悪いんですよ。愛されてるって勘違いしちゃうじゃないですか。


 あぁ、食べちゃいたいなアレックス。



 私はアレックスを象った鈴を一つ口に含んだ。真っ赤になるアレックス。


 気付いちゃいました?駄目ですよ。アレックスに触れるように慰めるように身体に巻いた鈴飾りを撫でる。


 震えるように自分の身体を抱き締めたアレックスが可愛すぎる。



 堕ちておいで、愛しい友人。囚われているってわからないくらい幸せにしてあげますよ。


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