第34話



 試着室のカーテンをひく。外界のカオスを忘れられる、この小さな空間最高。ありがとう、執事。



 二人の衣装は前開きのワンピースみたいな衣装だった。チャイナみたいな立った襟と振袖みたいな長い袖が綺麗な足首までのドレス。



 それが今、俺の身体の線にぴったりと美しく添うように作り替えられている。足首までの長さはそのままに踊りやすいように腰骨の辺りまで大胆に深くスリットが入っていてアオザイのよう。


 しかも、深紅の上衣と純白の上衣のスリットの位置が違う。二枚重ねて着た時に紅白の花のように広がることを計算した作りだ。



 無事に難を逃れたズボンを履く。このズボン足の長さとかは良いんだけど腰回りがブカブカでずり落ちそうだな。付属のベルトできっちり締めとこ。



 下着の上から鈴飾りを付ける。普通は俺みたいなキャラの場合晒で胸を押さえるんだろうけど、幸か不幸か胸は全く成長していない。


 ほんのささやかな隆起が肉眼で認められるか否か。多分ふくよかな男子には軽く負ける。泣く。母もまっ平らだから遺伝なんだろうな。


 ああ、胸が成長してこれ以上誤魔化しきれないわ、なんて嘆いてみたい。


 俺、下が付いていないだけで実は本当に男だったりして。



 父ってば、付けやすいようにパーツ毎に分けてくれてる。これならノワールの手を借りなくても付けれて、便利。軽くなるように見える所を中心に作られた鈴飾りがシャラシャラと美しい音を立てた。



 それでは、いよいよ上衣だ。先に着るように言われていた深紅の上衣を着る。


 ボタンは4つだけに変わっていて、外しやすい仕様になっている。月華の舞は上半身裸で踊る人も多く、服を脱ぐシーンが見せ場だったりするから、そこも計算されているんだろうな。



 一番下のボタンはおへそがギリギリ隠れる位置にあり、踊る時にズボンと上着の間で見えるか見えないかのあざといラインが憎い。



 アレックスは悪役令息で、ヒロインに負けないくらい綺麗なキャラクターだっただけあって、深紅の上衣が抜けるような白い肌に良く映える。これぞ悪役令息という息を呑む美しさだ。



 これで充分な気がするくらいだ。でも、折角ヴィヴィアンちゃんが繕ってくれたし、純白の上衣を上に着る。



 一枚羽織っただけで印象がガラリと変わった。かなり薄い生地を使った白い生地に下の深紅が透けた桜重ねが美しい。先程と打って変わった仄かな桜色がなんとも清楚な印象だ。



 深紅の上衣が身体のラインぴったりに作られていたのに対し、純白の上衣はふわふわと柔らかく包み込むようなラインになっている。そして、桜色の綺麗なボタンもキラキラしていて、それがより一層妖精のような愛らしさを醸し出していた。



 ヴィヴィアンちゃんは天才ですな。


 あんな短時間でこのようなクオリティの物を作り出すとは。


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