第27話


 パタム


父が母を抱き上げて颯爽と消えた。


 消えたが…。



 気まずい。真っ昼間からあんな舞見せられて、寝室に行こう発言をして、いきなり消えるとか。


 これから大人の時間とか、何するんだよ。思春期の子供達の前で何やってくれてるんだ、あの人達は?



 せめて俺一人ならいいよ。俺一人ならな。


 たが、隣にノワール。恥ずかしい。恥ずかしすぎて、まともに顔がみれない。きっと俺真っ赤になってるよね?


 だいたいギルバートの月華の舞と迫力が違いすぎるんだよー。ひとつひとつの仕草が無駄にエロいんだよな、あの人。



 ノワールの月華の舞が見てみたいな。


チラリとノワールを見る。こちらを見るノワールと目が合う。



 いつもと違う熱を帯びて潤んだ瞳にドキリとする。ほんのり目元が赤くてなんだか艶めかしい。


 先程の両親のキスシーンなんか見てしまったからなのか、ノワールの形の良い唇から目を話せない。


 なんだか美味しそう、食べてみたい。俺は思わず、ペロリと自らの唇を舐めていた。


 ノワールがはっとしたように息を飲んだ。



 コンコン。



 ノックの音と共に執事が入って来た。こちらを一瞥すると、ゴホンと咳払いをする。


 風邪でもひいたのかな?完璧執事が珍しい。



「アレックス様、旦那様より練習用の魔法玉を借りてしまったので、私共が・演奏するようにと…。」


 後ろにずらりと楽器を抱えた使用人達がいた。あ、うちの使用人さん達ってばすごく優秀な人多いんだよね。


 きっとプロ級の演奏してくれるんだろうけど、俺のへっぴり腰ダンスにこの錚々たる面々は勿体ないかな?



「いや、練習だし。」


 ノワールとふたりっきりで練習するの楽しみだったんだぞ。邪魔するなよ。


「アレックス様、練習は本番よりも緊張感をもってなさりませんと。」


 うちの敏腕執事厳しいよな。でも、たかが練習の為にこんなにも時間と人員をさいてくれるんだもの。感謝だな。


「ありがとう。」


「それとアレックス様、こちらが旦那様よりの贈り物です。」


 手にした飾り盆を感慨深げに眺めた執事は覆いをそうっと取った。飾り盆の上には父がさっき作っていたものそっくりのいや、それよりももっと凝った造りの壮麗な銀の鈴飾りがあった。小さな鈴一つ一つに透かし彫りがしてある。


「うわー、綺麗。」


 シャラシャラと揺れる美しい飾りに見惚れる。時間を忘れていつまでも見ていられそうな逸品。これってもしかして、父みたいに歩く時に一切音が鳴らない特別仕様なんじゃ?


 ラッキー、チートだ、この鈴チートに違いない。父よありがとう。早速身体に巻いてみる。


 え?これいつもの鈴よりめっちゃ音がなるじゃん!全然チートじゃない、父のバカー。



 ぷんぷん怒る俺を華麗にスルーした渋おじ執事がもう一つの飾り盆をノワールに差し出した。


「こちらは我が主より先程頂いたお土産の返礼になります。受け取るか否かはお任せすると…。」


 うーむ。ノワールに丁寧に接しているものの、なんか目が笑ってないような、良く通る深く渋い声にも若干ノワールを試すような響きがある。


 指先まで行き届いた美しい所作で被せられた布がさっと払われる。


 飾り盆の上には黄金の金細工の鈴飾りがあった。俺の鈴飾りよりも更に鈴が細かくてたくさん付いている。それらが三連に絡み合ったあまりにも華麗で豪華な物だった。



 それを見たノワールが、考え込むように固まっている。



「すごく綺麗だね。触ってもいい?」


 誰からも異論がなかったので、持ってみる。


 え?何これ、なんか滅茶苦茶重い。このずっしり感とこのうるさいぐらい鳴る鈴の音は何?


これ巻いて踊るなんて無理じゃない?何が御礼なの?こんなの罰ゲームじゃん。どうせなら金の延べ棒くれたら良いじゃん。


 比重からして純金なのかな?それにしても重すぎない?細かい細工の鈴を光に翳すと中には小さくて綺麗な翡翠の玉が一つ一つに入っていた。



 何やら覚悟を決めたようなノワールが恭しく飾り盆を受け取った。


「謹んで頂きます。これで閣下のお望み通り踊りきって見せますと、リヴィエラ公爵にお伝え下さい。」


 ノワール大丈夫?



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