第26話
胸元から銀の装飾の小刀を取り出した父がそれを舞に使う鈴飾りに変える。
父が魔法で作ったそれは普通のものより、遥かに繊細でシャラシャラと美しい音を立てた。
鈴飾りの端を口に咥え、するすると身体に巻き付けていく。そんな一連の所作さえもため息が出る程優雅で美しい。そしてなんだかものすごく色気駄々漏れだ。
飾り一つない軍服の上に鈴飾りを付けるだけでこうなのだから、ゲームのご褒美スチルにあった初夜の晩に花婿の衣装でやられたらもう…。
父に見惚れている間にテーブルは跡形もなく移動していた。執事が踊りやすいように場を調えたようだ。
流石うちの誇る敏腕執事。
母の座っている席はそのままに、その後ろに2脚の椅子が設置されている。母の正面には踊るのに丁度良い空間が出来上がっていた。
執事達は既に外に出ていた。用意された椅子にノワールと腰かける。
父が母にもう一度口付ける。シャラシャラと美しい鈴の音色が父の動きに合わせて響く。
二人の視線が甘く交わる。物心付いた頃から決して視線を合わせることのなかったふたりの時間が今ようやく動き出したような、不思議な感覚になんだか泣けてきた。
名残惜し気に母の頬を撫でた父が、舞台に見立てた空間へ鈴の音を一切鳴らす事なく優雅に歩く。
歩く姿ひとつが芸術のようだ。
父が正面を向いた。ノワールが手にした魔法玉から、月華の舞の曲が鳴り出す。
歩く間は全く音を立てなかった鈴が踊りに会わせて美しく響きだす。
普段の優雅さからは想像出来ない力強く男らしい踊りだった。一つ一つの所作がビシッと決まっていて、その動きに合わせて鈴の音もシャンと鳴り響きなんだかめちゃくちゃ格好いい。
空中に高く蹴りあげた足に合わせて父の軍服の裾が翻る。漆黒の軍服の裏地の深紅がチラチラと見えてそれがなんとも艶かしい。
テキスト通り正確に踊っているのに、なんとも言えない色っぽさにくらくらくる。
激しかった音楽が少しゆっくりと切なげな旋律に変わる。曲に合わせて父が軍服のボタンにゆっくりと手を這わせた。長く美しい指が漆黒の軍服を這う。なんとも淫らだ。
かっちりとトレードマークのように喉元まで留められたストイックな軍服の第一ボタンが外された。うわー。ボタン一つで無駄にエロい。
旋律に合わせてくるりとターンする父の動きに合わせて翻る裾と裏地の赤が艶かしい。父が母を舐め回すように見ながら、ボタンをもう一つ外す。肌が露になる。
母の紅で赤く染まった唇をペロリと舐める。
もう母なんて後ろから見ても耳まで真っ赤だし、なんかご褒美スチルでいろんな攻略対象者達の月華の舞を見慣れていた筈の俺ですらきっと真っ赤になっている。
まだ、五分も踊っていないのにエロい、エロすぎる。流石、我が父。
その時、シャン、美しい鈴の音とともに、父が静止した。
「ここから先は大人の時間だね、ライラ。寝室でじっくり続きを見せてあげるよ。ノワール、魔法玉を借りるよ。」
父が母をお姫様抱っこして、スタスタと出ていった。
鈴ひとつ鳴らさずに…。
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