第23話【番外編】リヴィエラ公爵誑かされる
自宅に向かう馬車の中、リヴィエラ公爵はノワールに渡された魔法玉を光に翳す。
シンプルな魔法構成が美しい。まだまだ、未熟ではあるものの、将来が楽しみだな。
いつも無表情な妻ライラが何を考えているのかは、わからない。
生憎私には暗示は効かないが、かけてもらおうじゃないか。
想い人と添いたいから離婚してくれとか言われたら、どうなるかわからないがな。
ライラに想い人がいる事はわかっているがどれだけ調べても誰なのかがわからない。正体を突き止めて血祭りに上げる良い機会だな。
リヴィエラ公爵は、魔法玉を握り込みうっそりと嗤った。
『こんにちは。5分間だけ我慢してくださいね。』
脳裏にやけに可愛らしいアナウンスが響く。なんだ、この無駄に凝った仕掛けは。
魔法玉の拘束の効率はノワールの言う通り緩く簡単な構成だった。なんの害も感じられないくらい、子供騙しの。
ただ、謎の可愛らしい動物が可愛らしくアナウンスし、脳裏に残りの時間が表示されるする凝った作りに興味が湧く。
ノワール、なかなか面白い男だな。だが、そう簡単に我が子アレックスは渡さないがな。
目の前でライラが私の手を取り、ぎゅうっと握り締めた。ライラが素手で私に触れるのは初めてかもしれない。暗示にかける気だな。
いつもの無表情から打って変わった素の彼女の表情に、出会った頃のライラを思い出す。
この人はやっぱり可愛いな。
この表情を見られただけでも重畳だ。
「憎い人。」
やはりか、ライラ。貴女の口から実際に聞くと辛いな。だが、本音を話すと良い。私は動かない。
「ずっと素敵なまま。レオナルドは本当に格好良すぎだわ。睫毛なんてこんなに長くて。はぁー、お肌もスベスベだわ。」
え?どうした、ライラ。何があった。人が動けないからと人の睫毛で遊ぶんじゃない。ライラの指先がわたしの頬を滑る。まばたき一つ出来ないのに感覚はちゃんと感じるし音も聞こえる。ライラの指先最高だ、やるなノワール。
イタズラな瞳をキラキラさせたライラが可愛すぎて辛い。ライラ、頼む、人の心を弄ぶのはやめてくれ。
『あと、4分だよ。我慢してね。』
ふざけたアナウンスに救われる。
「レオナルドったらいつも仏頂面して私と目もあわせてくれないし。」
それは、ライラの方だろ。
「いっつも、哀しかったの。」
哀しかったのか、めちゃくちゃ可愛い。今すぐ抱き締めたい。こんな魔法玉即刻解除してやる。
『あと、3分35秒だよ。我慢、我慢。』
そうだ我慢だ。我慢しよう。ライラの本音が知れる貴重な機会だ。ふざけた謎生物よ、ありがとう。
「だから騙したわ、自分も貴方も全て。アレックスは女の子なの。だけど、アレックスを産んだ時にもうこれ以上子は望めないと言われて騙したわ。あなたが想い人を側室に迎えるのを邪魔したの。」
私に想い人ってなんの話だ?
ライラがアレックスの性別を偽ったのは知っていた。だが、いつも私に無関心なライラが嫡子を産んだのだから側室を持たないでと願ったことに気を良くして深く問い詰めなかった。
問い詰めたらギリギリの均衡で保たれているライラとの関係が壊れてしまいそうで、問い詰めることが怖かったのだ。
ライラ、騙した君が一番深く傷付いていたのだな。
「アレックスが無事学園を卒業できるように、協力して。」
わかった。もとより、そのつもりだ。
「アレックスは、ノワールと同室にしてね。」
ライラそれは、それだけは、止めた方がいいと思うが…。ノワールは狼だぞ、アレックスが危険だ。
「お願い。」
上目遣いか、上目遣いなのかライラ。これはいかん、いかんぞ。
ライラが手元の砂時計を見る。
「あと、1分あるわね。」
あと、1分か…。
「レオナルド、愛してるわ。」
はい?どういうことだ?君には想い人がいたのではないか?
「お願い、一度で良いの。心を欲しいなんて贅沢は言わないわ。言葉だけで良い、愛してるって言って欲しいの。」
天国か、私は天国に来たのか?ライラが可愛すぎて死ねる。今なら確実に成仏出来る自信がある。
いや駄目だ、ライラに告白しないまま死ねない。未練を遺して怨霊になってしまうぞ。
心をがっつり奪われたまま、私は無情にも最後の一粒が落ちた砂時計を見つめた。
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