第12話ギリアム・バルドー



 僕は天才だと言われて生きてきた。



 法曹の名門バルドー家は頭脳明晰な人間が多い。その中でも際立って優秀。それが僕に対する評価だった。



 リヴィエラ公爵の残した記録を超える事は出来なかったものの学園の単位を一年でほぼ取り終えた快挙に周囲は沸いた。



 その僕の記録をあっさり塗り替えリヴィエラ公爵の記録と並んだノワールは明らかに鬼才だった。



 努力しても決して叶わない存在がいるのだ。それがこの年齢でわかったことは僥倖だったのかもしれない。


 悔しかったが敗けを認めると心が軽くなった。幼少の頃からずっと抱えていた重厚から解放された気がした。


 それに、ノワールとは気があった。



 ただ、ノワールのことで気がかりな事が一つあった。それは彼とリヴィエラ公爵令息との関係だ。



 学園での学校行事の参加は自由だ。



 しかし、成績には多大な影響を及ぼす。行事に出ていれば、彼の実力ならば、リヴィエラ公爵の記録を超えることも可能だったのではないか。



 学校行事の前になると彼はそわそわと普段の冷静な様子からは考えられない様子になった。


 だが、彼は決して学校行事に出ることはなかった。彼の家の属する派閥の長であるリヴィエラ公爵令息に必ず呼び出されるのだ。


 学園に戻って来た彼は脱け殻のように窓の外を眺めてはため息をついていた。学校行事に出ないことは彼に不利益をもたらすのに…。彼の足をひっばるリヴィエラ公爵令息との付き合いを考え直してはどうかと何度も話した。



 そして、ノワールは今回の長期休暇前にリヴィエラ公爵令息との交流を断つと決意して実家に帰っていった。


 まるで死地に赴くような悲壮な顔をして。


 実家のパワーバランスを考えれば確かに厳しいとはおもったのだ。


 しかし、結果はまさかのリヴィエラ公爵令息の学園入学という最悪の結末が待っていた。



 しかもリヴィエラ公爵は寮の部屋割にまで権力を使ってねじ曲げた。令息はともかくリヴィエラ公爵は非常に公正な人物で権力を濫用することなど無かった筈だ。彼を慕う人物は多い。彼は救国の英雄なのだ。



 なのに一人息子の事となると非常識な判断をする。学園に入学させなかったり、いきなり一年飛ばして編入させたり、そして、今回の部屋割にまで口出ししたり。



 リヴィエラ公爵令息が噂通りの我が儘令息なのかを見極めるべく、今日はわざと寮長の正装で迎えよう。



 貴族の令息が集まるこの学園では、寮長の正装は執事に間違われる事が多い。


 目下の者にどういう態度をとるか見極めるのに有効な手段の一つとして使われる手だ。


 僕にぞんざいな態度を取るようなら寮長権限で退寮処分を下そう。たとえ、リヴィエラ公爵と対立してでも。


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