第11話 ここって執事カフェですか?
学園の寮には、カフェという名の食堂があるらしい。
そのカフェで朝食や夕食を食べるそうだ。
「いらっしゃいませ。」
黒い燕尾服を纏った某執事アニメ風衣装の美青年がにこやかに出迎えてくれた。細身ながら背はノワールよりも少し高く、すっと綺麗に伸びた背筋が美しい。
淡い水色の長いストレートの髪を緩く後ろで一つに止めて、アクアマリン色の瞳に眼鏡をかけた姿がとても理知的で興奮してしまう。
これってもしかしなくても魅惑の眼鏡キャラじゃん。笑顔なのに腹に一物ありそうな感じがなんだかたまらん。
カフェ?ここ執事カフェか何かか?前世だったら頑張って通いつめるぞ。こ、このカフェが寮内にあるなんて毎日眼福の極みではないか。
リヴィエラ公爵家にも執事はいるが、眼光鋭い燻し銀のおじさまだもの。
おじさまも素敵なんだよ、父とおじさまが二人で何やら話してる姿なんてかなり渋くて艶っぽくていい感じなんだけど…。
それはそれ、これはこれなんだ。こんなに若い執事なんて、萌えー。
内心興奮する俺が執事さんに近づこうとしたその時ノワールが、俺と執事さんの間に入った。
「ギリアム先輩、紹介いたしますね。こちらが今日から入寮するアレックスです。アレックス、こちらは寮長のギリアム先輩だよ。」
え?寮長って?執事じゃなくて?俺の理想の執事像がー。しくしく。
「あぁ、この格好?これはね、寮長の正装なんだよ。いつもこの格好をしているわけではないよ。今日は入寮式だからね、特別。僕はこのカフェによくいるから何か困った事があったら相談してね。」
ふふふ、と笑いながらギリアム先輩が言う。
「ギリアム先輩がここで寮生の相談に乗ってくれるようになってから、寮のトラブルが未然に防がれたと評判なんだよ。」
ノワールがギリアム先輩の事を教えてくれる。教えてくれるけれども、ノワールの身体が近くてギリアム先輩の貴重な執事風姿が良く見えない。普段見れないなら、尚の事この目に焼き付けておきたいのに…。
「ノワール、そんないいもんじゃないよ。それに将来の為の勉強になるしね。」
ギリアム先輩がこちらを覗き込んだ。執事ー、執事素敵です。視界がまたもやノワールの身体の一部で隠される。む。
「ギリアム先輩は、法曹の名家バルドー伯爵家の長男なんだよ。」
その言葉にはっとする。
ギリアム・バルドー。
俺はその名を知っている。確かゲームでノワールを手助けする次期検事総長を約束された超エリート特捜検事だ。
ゲームのノワールの良き相棒だった。薄い本業界でも、ノワ×ギリ派がギリ×ノワ派かで対立する程人気があったような…。
ギリアム先輩はこの先俺が絶対敵に回してはならないキャラじゃないか。気を引き締めないと。
それにしても、やけにこの二人仲良くないか?むむ?距離が近いぞ。
「去年まで、僕とノワールは同室だったんだよ。先輩後輩と言うよりは大切な友人という感じだったよね。」
俺を見ながら、ギリアム先輩がノワールの肩を抱く。前世なら、サービスショットとスクショしまくりなんだろうけど、今はなんだか無性にモヤモヤする。
むー、何が大切な友人だよ。
俺だって、格好よくノワールの肩を抱きながらそんなセリフ吐きたいわ。
ノワールより背が高いからって、調子にのりやがって。
お前がノワールの肩を抱けるのは今だけなんだぞ。ゲーム開始時点ではノワールの方が背が高いからな。お前はそのうち抜かされるんだ。
肩だって抱かれちゃうんだからな。うわー、なんかそれもやだ。ノワールが俺以外の肩を抱いてる姿なんか見たくないぞ。
たった一年。たった一年で、ノワールと俺の距離が遠くなった気がした。ここには俺の知らないノワールがいる。
ノワールは俺の親友なんだ、ノワールと幼い時からずっと一緒にいて、一番知っているのは俺なんだって叫びたくなったけど、必死で我慢する。
神々しい二人をこれ以上見ていたくなくて、少しうつむいた。
視線の先にノワールの手が見えた。剣だこの出来たゴツゴツとした指はこの学園で俺の知らない一年間頑張ってきた証なのだろう。
その袖の端をそっと握りしめた。
驚いたようにこちらを振り向いたノワールと目が合う。
ノワールが俺を見てふわりと笑う。その蕩けるような笑顔に安心する。
ねぇ、ノワール。俺だけを見てっていったら怒るのかな。
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