第10話 寮生活で浮かれましたが、何か?



 男子寮は、想像していたようなむさ苦しい男子寮とは違った。


白を基調としたその建物の外観は大聖堂を彷彿とさせ繊細な砂糖菓子のような美しさだ。


 確かすごく歴史のある建物と聞いていたのに完成直後のような真新しさをかんじる。


 エントランスは天井が高くあかり取りの窓から燦々と光が照らし、埃一つない清潔な建物が高級ホテルに来たような感覚だ。


 リヴィエラ公爵家の重厚で荘厳な造りとは比べ物にならないが、前世庶民の俺としては実家よりこちらのほうがリゾート感覚で嬉しい。



 ノワールに先導されて、エントランス中央にある荘厳な雰囲気を醸し出す階段を上る。


 真っ白な階段の装飾がとても凝っていてウェディングケーキみたいで可愛い。二階にたくさん並んだ扉の一つをノワールが開けた。



「うわー。ここが部屋なんだな。」


 荷物はノワールが転送してくれたから、手ぶらで楽チン。しかも、既に荷解きも終えて、服も皺一つない状態でクローゼットに掛けてあった。


 掃除が行き届いていて埃一つない部屋の中には机とベッドと作り付けの収納、そしてバスルームとトイレと洗面所がある。はっきり言おう。前世で頑張って借りていた家よりも広く遥かに綺麗だ。



「狭くてびっくりしたんじゃないですか?」


 なんて不安げに聞くノワール君よ。余は充分に満足じゃ。なんなら、毎日リゾート感覚で幸せだ。


 それに無駄に広くて豪華な寒々とした公爵家よりここでノワールを愛でながら過ごす毎日のほうが幸せに決まっているじゃないか。



「実家よりなんか、こっちの方がなんか落ち着くよ。それに、ノワールとずっと一緒なのが、めっちゃ嬉しい。」


 へへ。


「アレックス、私もです。」



 にっこり蕩けるような笑顔を浮かべるノワールが妙に色っぽくて、どきまぎする。


 それに、なんかこれ新婚さんの会話っぽくないか?ざわつく気持ちを落ち着かせよう。何かしゃべらなければ、このシチュエーションに続く名言はアレだアレ。



「食事にする?お風呂にする?それともわ・た・し?」



 ドキドキを誤魔化そうと冗談で言った俺に、ノワールがぶわーっと赤面した。いつも冷静なノワールらしからぬ動揺した姿につられて、俺まで赤面する。


 顔や耳だけに留まらず、首筋や身体まで真っ赤になってる。


 もーやだ、自爆した。めっちゃ恥ずかしい。すべった以上の大惨事じゃないか。



 それになんかこれって、甘酸っぺー。付き合いたてカップルなのかよっていうくらい甘酸っぺー。


 ノワールと俺は、そんなんじゃないからな。


 一生涯続く親友を目指してるんだからな。



 敵になるのだけは絶対にごめんだし、それ以上にうちの両親のような仮面夫婦はもっとごめんだ。



 お見合い状態で赤面する俺たちの状況から先に抜け出したのはノワールだった。



「アレックス、小腹が空いたのなら寮のカフェでお茶しませんか。軽食も美味しいですよ。」



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