24.センタク

 その日はよく晴れた洗濯日和だった。すっきりとしない天気続きだったこともあり、これ幸いと溜まった洗濯物を片付けようとわたしはせっせと手を動かす。


「結、結や。手が空いたらこちらへおいで」


 ミシルシ様の声に手を止める。何故だろうか。なんて事はない呼びかけだ。きっと他愛ない用事だろう。

 なのに、ざわり、と胸に違和感を覚えた。


「どうかしましたか」


 わたしの声に応えるように、美しい口元が弧を描く。


「終いにしようぞ」


ミシルシ様が、短くはっきり、そう言った。


「何を、なぞと聞くまでもなかろう。お主は聡い。この生活も存外悪くはなかったが、ようやくこの時に至った」


 口の中が干からびたように乾く。酷く嫌な予感がした。


「お主は近く、私を葬ることになる」


 天気を告げるような気軽さで、その宣託は下された。


「話そう、全てを。私とお主たち一族のこの長きに渡った因縁も、聞くに耐えない蛮行も、全て語って聞かせよう。そしてお主が、私のこの首を葬るのだ」


 言い返そうと思うのに言葉がもつれて出てこない。反比例するように滑らかにミシルシ様は口を回す。


「……そう怖い顔をするな」


 眉を寄せ困ったような微笑みがこちらに向けられる。わたしは今、どんな顔をしているのだろうか。

 わからない。ただ、ただ、この生活が壊れる気配が怖くて怖くて仕方がなかった。


「お主に聞く気がないというなら、無理に聞かせはしない。このままの生活を続けたいというならそれも受け入れよう。私ひとりではここから出ることも叶わぬ」


 そうだ。首から下のないミシルシ様が一人で出歩くことは不可能。そしてその存在は、今となってはわたししか知らない。

 わたしが望む限り、この箱庭はきっと崩れることはない。


「選べ、結」


 すべてはわたしの、選択次第。

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