23.白

 底冷えするような朝の寒さに、いつもより早く目が覚めた。表が妙に明るい気がしつつカーテンを開け、飛び込んできた光景にほうとため息が漏れる。


「ミシルシ様、ミシルシ様」

「どうした。何だまだ早かろうに……」


 時計の針を確認したミシルシ様がもにゃもにゃと歯切れの悪い文句を言う。その首を毛布で包んだまま抱え窓際に寄った。


「おい、いいのか。外から見えても知らないぞ」

「まだ早いから大丈夫ですよ」


 新聞配達はもう走っているだろうが、通勤通学の人が行き交うにはまだ随分早い。それでもリスクはゼロではないが、今は興奮が勝る。外の様子を伺って、わたしは細く窓を開けた。


「見てください。真っ白」


 窓から見える屋根や道路はうっすらとだが白い雪化粧に覆われていた。


「ほう……冷えると思ったら降っていたか」

「そうですね。つい半月前までは夏みたいに暑かったのに、すっかり冬だ」

「もう師走も近いからな」


 声をひそめるように囁きあうたび、息が白く立ち上る。もう少し眺めていたい気もしたが風邪をひいては仕方がないので、早々に切り上げ部屋へと戻った。


「それにしても意外だな」


 ミシルシ様がにやにやと意地悪に笑う。鼻の頭に寒さのせいか赤みが差しているので今ひとつ迫力はない。


「初雪にはしゃぐとは、お主もまだまだ可愛げがある」

「なっ」


 言われてみればそれはそうで、頬にかっと熱が上る。否定できるわけがない。

 確かにわたしは、浮かれていたのだ。


「まあ、早起きしたのは正解だぞ。テレビをつけてみろ」


 まだ熱さの残る顔を押さえつつ、促されるままにリモコンのスイッチを押す。ダウンジャケットを羽織った気象予報士が各地の寒さを伝えている。


「今はまだ良いが程なく交通機関が乱れる。いつも通りでは遅刻だぞ」


 その予言で一気に現実に引き戻されたわたしは、慌てて朝の支度を始めた。

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