18.椿

 椿の花が好きだ。

 盛りを過ぎて花弁を散らすこともなく、ぼたりと丸ごと落ちる花。首が落ちる様を連想させると気味悪がられることもあるが、わたしはそれが好ましい。落ちたなお、花弁を残した美しい花は、どうやったってあのヒトを思わせてくれるから。


「綺麗ですね、椿。そろそろ見頃でしたっけ」


 つけっぱなしのテレビが流す旅番組には、濃い桃色をつけた生垣が映っていた。


「阿呆。花椿は春の季語、花をつけるのはもっとあとだ」


 もう一枚と急かされて、ミシルシ様の口元にせんべいを運ぶ。ぱりぽりと小気味のいい音を立てて、かけらが首元に溢れた。


「あれは椿ではなく、山茶花だろうて」


 品種によってはよく似ているが、こちらは晩秋の今頃から咲き花びらが散る花だという。椿はといえば今は花ではなく実季節らしかった。


「椿、好きなんですけど案外曖昧にしか知らないものですね」


 確かによくよく見れば、リポーターの足元には花弁がちらほらと散っていた。ミシルシ様が咀嚼する間に、わたしの方もせんべいを食む。先日の食べ残しに輪ゴムで封をしただけだったせいか、ほんのり湿気っていた。


「大抵はそんなものさ」


 それは暗に、このヒトのことも大して知りはしないことを見抜かれたようで腹の底がざわついた。


「そうさな。椿なら隣町の寺に植ったものが見事だぞ。年が明けたら行ってみるといい。良いこともあるぞ」


 赤い舌がちろりと覗き唇を舐める。それでは荒れてしまうだろうと慌ててティッシュでその口元を拭った。


「いいこととは?」

「何とだな、おみくじで中吉が出るぞ!」


 高らかに申し伝えられた予言に思わず机に突っ伏した。


「そこは大吉じゃないんですか……」

「ないな。ちなみに中吉は吉の下で三番目に良いと言われる」


 二番ですらなかった。つまり真ん中よりは少し上。しかし結局のところわたしの身の丈には、それくらいが丁度いいのかもしれない。

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