16.面
大掃除を見据え、整理にとりかかった押し入れのなかにそれはひっそりと埋もれていた。
「何だこれ……」
ガラクタばかりを乱雑に押し込めたなか、妙に由緒ありげな桐の小箱が目についた。家財の類は随分と処分してしまい、こういったもので未だ手元に残してあるのは、ミシルシ様のための品がほとんどだ。これもそうに違いないと紐を解き、中身をあらためる。入っていたのは木彫りの面。といってもそれは、わたしの両の手に余るほどいやに小さな物である。
「おや、懐かしい」
目ざとくこちらを見ていたらしく、ミシルシ様から声がかかる。
「ご存知ですか」
「もちろん。お主もつけたろう」
そう言われても記憶にない。この大きさだ。覚えていないほど小さな頃か。
「産まれた赤子にそれを被せて引き合わせ、私が名付ける習わしだからな」
「何でわざわざこんな不気味なものを」
「知らぬ。大方恐ろしかったんだろうさ。名前もまだないか弱い者を丸腰で見せることが。加護は欲しいが呪いはいらぬとは強欲なことよな」
ミシルシ様が意地悪く笑う。わたしが引き継いでいない以上事実は確かめようもない。しかし、我が家の成り立ちを鑑みるにあり得そうで否定し難かった。
「ならもうこれは、お役御免ですかね」
「――お主の子にとは思わぬか」
「子供どころか、あなたがいるから恋人すらいたことありませんが」
冗談のつもりで返したのに、あっ、と気まずそうに黙り込まれた。憐れみのこもった視線を寄越すのはやめていただきたい。
「別に気にしてませんから」
強がり半分に振り返ると、打って変わって粛然とした色のない瞳がこちらを見ていた。表情のないその顔にざわりと心が騒めいた。
「その言葉、後悔するなよ」
どういう意味かと問うより早く、ぴしり、と乾いた音が響く。見下ろした掌のなかで、面が真っ二つに割れていた。
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