15.猫
猫の目のようにとはよく言ったもので、ここ数日ご機嫌だったミシルシ様だが、今はめっきり不機嫌だ。朝から兆しはあったものの、日が傾くほど機嫌も下降しすっかり臍を曲げていた。
「寒い。寒すぎる。こんなに急に冬が来るなぞおかしかろう!」
その原因は思ったよりも大分わかりやすいものだった。
「これまでが暖か過ぎましたからね。これくらいで季節相応でしょう」
そう宥めつつわたしはミシルシ様の首元、といっても首から上しかないのでほぼ全身である、を包み込むように毛布で覆う。それでもやはり寒そうな気がして、隙間を埋めるようにマフラーを重ねた。
「さすがにそれは息苦しいぞ」
「あ、すみません」
うっかりやり過ぎてしまったようで、重なった布を顎あたりまでずり下げる。カイロや暖房器具を使えればいいのだが、いかんせん身軽に動くことができないミシルシ様には低温やけどが恐ろしい。結果このようにもこもこ巻いてしまうわけで、その姿は大きさのせいもあって丸まった猫を思い出させる。
「仕方がない、今夜ばかりはお主の布団に入るとするか」
入ると言っても自力でできるわけもないので、つまりは入れろということである。普段はそんなことはしないのに、それほど寒さが堪えるらしい。わたしとしても願ったり叶ったりなので大人しく申し出に従っておく。
こんなに寒い冬の夜はどうやったって人肌恋しくなるものだ。
「お主に湯たんぽの栄誉をくれてやろう」
「はいはい、光栄なことで」
添い寝する姿を思い浮かべると、湯たんぽなのはミシルシ様の方ではと思いはしたが口にするほど野暮じゃない。言わずとも何か漏れていたのか、不敬といつものお小言を頂戴した。
「喜べ、今夜は良い夢が見られるぞ」
そういえば今日の予言がまだだった。いや、これは予言といえるのか。
「ミシルシ様もいい夢見られるといいですね」
得意な顔にそう返すと、わたしの言葉が予想外だったのか宇宙を背負った猫のような何とも言い難い顔をするから耐えきれずに吹き出した。
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