14.月
予報外れに晴れた夜空に明るい月が昇っている。暗がりを切り抜いたようにぽっかり丸い光はまるで穴のようにも見えた。
「結や、カーテンを開けてくれ。月が見たい」
ミシルシ様がそう言うので部屋の明かりを消す。通りに面してはいないとはいえ、万一誰かに見られては具合が悪い。暗がりになった室内を手探りで進みカーテンと窓を開けると、街灯か月明かりか、外の灯りに照らされて薄ぼんやりとした闇が広がった。
「抱えますよ」
いつもの位置では窓の外は見えないのでミシルシ様の首を抱える。窓から吹き込む風は冷たく、少し考えて転がしていたブランケットを羽織った。
「見えますか?」
膝を立てて胸との間に首を抱く。高いところの月が見えるように、いくらかその位置を整える。
「ああ、いい塩梅だ」
そのままお互いしばし無言のままに夜空を見上げ眺める。晴れたとはいて雲は多く、流れるその合間から隠れ現れを繰り返す。流れ込む空気はひんやりとしていて、触れ合った温度が一層感がられるようだった。
こんな風にのんびりと、月見をするのも久方ぶりだ。
「綺麗ですね」
月並みな感想を漏らすと、腕の中の首がくつくつ震えた。その顔が見たくて、角度を変えて覗き込む。
「そうだな、綺麗だ」
単純な奴めと嘲笑われたのだと思ったが、どうやら少し様子がおかしい。小さく震え続けるその顔をそおっと右手で撫でさする。
「やれ嬉しや、嬉しや」
言葉通り、さも嬉しげにミシルシ様が笑う。同じ月を見ているはずなのに、その目はどこか遠くを見据えている。あの目にはどんな月が映っているのだろうか。
「――また少し、仄日は近づいた」
にいと細められた瞳が、三日月のように妖しく光る。
その言葉の真意を、わたしは知らない。
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