11.坂道
ごろりごろり、とオレンジが坂道を転がってくる。今時の子には伝わらないかもしれないが、使い古されたボーイミーツガールの一コマのようだ。そんなことを思いながら、無視することはしのびなく、転がる果実はせっせと拾う。
おかしなことに拾えども拾えども、落とし主が現れる気配はなく転がって来る実は段々と大ぶりになっていく。いよいよ変だと思っていると今度は西瓜のような大きさが転がってきた。これはいけないと膝をついて腕で受け止める。どうやら割れはしなかったらしい
。息をついて見下ろすと実に穴がふたつ空いていた。いや違う、わたしはこれを知っている。
実は、否その生首の、ミシルシ様のふたつの眼がこちらをじいっと覗いていた。
「ようやっと起きたか」
「ぅおわ……っ」
跳ね上げた布団から埃がたったか、ミシルシ様がけほりとむせる。その首はわたしが寝る前と同じ位置に佇んでいて、当のわたしはといえば未だ布団の中だった。
「随分早いお目覚めだな。腹が減ったぞ」
「え、あ、すみません……」
時計を見るとすでに昼前近かった。臓腑はなくとも腹は減るんだな、なんて今更なことを考えて早鐘を打つ胸の内を誤魔化す。内容はすでにおぼろだ。それでもざらりとした不安が拭えずに、わたしはミシルシ様に手を伸ばす。
「おや、どうした珍しい」
腕のなかに閉じ込めるように首を抱く。密着した心音が伝わっているのか、いつものように不敬とは言われず、甘やかすように宥められた。
「良くない夢でも見たのかえ」
「そんなところです」
ミシルシ様が喋るたび動く唇がこそばゆい。覗き込むとうっすら細められた飴玉みたいな目玉がふたつ、やはりこちらを覗いていた。
「まあ、今日は気圧の谷というやつで天気も崩れる。調子を崩すのも仕方がなかろう」
頭痛の薬を用意しておけという今日の予言は、やはりスマホのアプリとそっくりで、思わずふっと笑いが漏れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます