9.つぎはぎ

 数日のうちにみるみる気温が下がっていき、さすがに肌掛け布団では耐えきれなってきた。不精するのもここまでかと後回しにしていた衣替えを終え、最後に押し入れから布団を取り出す。

 つかえるような感触がしたが面倒で、力任せに引いたところでびりと嫌な音がした。


「おやおや、手間を惜しむからそうなるんだよ」

「そうですね、わたしが悪うございましたよ……」


 大きく裂けたカバーから無惨に布団が溢れている。とはいえ捨てるのは忍びない。


「ああ、危なっかしいな。見てられない」


 何とか繕ってみようと針と糸とを持ち出したわけだが、わたしの手つきにミシルシ様が悲鳴をあげる。やかましいなと跳ね除けたいが、自分でもそう思うのだから否定できない。さすが、家庭科で欠点をとりかけただけのことはある。

 仕上がったそれは貧相なつぎはぎではあるが何とか穴は塞がった。どうせ使うのはわたし一人だ。見てくれが多少悪くても支障はない。


「随分お上手じゃないか。この首も縫い付けてほしいくらいだ」


 荒い縫い目にこの間見た怪物映画でも思い出したのか、戯けた口調の言い振りにわたしは思わずため息を吐く。


「嫌ですよ。誰が調達するんですか、首から下」


 不敬と喚く声を背中に、使い終わった針をしまう。あの首に、別の体を繋ぐだなんて。考えただけでぞっとしない。


「待ちやれ」


 裁縫箱をしまおうとしたところで、ミシルシ様の声がわたしを留めた。


「今日の日和なら数が満ちるは十か。過不足ないのが丁度よい。痛い目見ぬよう気をつけるといい」


 凛とした声が予言を紡ぐ。わたしは閉めた箱をもう一度開き、針の数を改める。元の数は覚えていないが、何度数えても九本しかない。

 嫌な予感に用心しながら布団を撫でると、気づかないうち落としたらしい針が一本溢れでた。


「……ありがとうございます」

「どういたしまして」


 危うく見逃すところだった。やはり慣れないことはするものではなと、凝り固まった肩を揉んだ。

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