8.鶺鴒

 天気がいいからと開け放っていた窓の外から、ぴいぴいと鳥の声がする。そちらを眺めるミシルシ様の視線をたどると、と水路の辺りで二羽の小鳥が鳴いていた。


「可愛らしいですね」

「そうか?なあ、結や。今晩のおかずは焼き鳥がいい」


 穏やかな気分が一息に台無しになった。鶏や卵ならばわたしも場合によってはそう思ってしまうは否定しないが、愛らしい小鳥を見てその感想はどうだろう。しかも黒っぽくて、特に食欲はそそらない。いや、色味は関係ないのだが。


「冗談だ。さすがに鶺鴒を食うほど罰当たりじゃない」


 妙な言い回しに首を捻ると、今度はあちらの顔が歪んだ。


「なんだ、最近の子は国産みの神話も知らぬのか」


 呆れたようなため息とともに、調べてみろと促される。机上のスマホを取り上げ、漢字はわからないので仮名でせきれいと入力し、検索ボタンをタップした。


「これは、何といいますか」


 イザナギとイザナミの国産み神話くらい、多少ならわたしも知っていた。しかし、これは、何というか。身内の前で読むのは微妙に気まずい。


「どうだ、わかったか?」


 それをわかっていてのことに違いない。にまにまと効果音が聞こえそうな顔でミシルシ様がこちらを見てくる。


「わかりましたよ。あと秋の季語だそうですね」

「何じゃ照れずともよかろうに愛やつめ」


 性を匂わす単語ひとつで騒げるほどもう子供ではない。わたしの目が冷えていくのを感じてか、何じゃつまらんとミシルシ様は口を尖らせた。


「そんなお主に今日の予言だ。遠からず、近しい者が授かりものをする」


 珍しくそれらしい予言に私は思わず肩を揺らした。話の流れのこともあるが、授かりものとはつまり懐妊のことだろうか。心当たりはないぞと内心、ここ最近の己の行いが駆け巡る。


「そしてお主が忙殺される姿が見える」

「それ近日中に誰か産休に入るやつじゃないですか!?」


 うっかり崩れ落ちたわたしを見て、ミシルシ様はからから笑った。

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