6.眠り
その人が眠る姿は、とても美しい。静かに伏せられた瞼。引結ばれた唇は寝息ひとつ立てることなく、生きているのかもわからない人外の美しさであった。もちろん、首から下がない時点で十二分に人の輪からは外れているのだが。
「お休みですか……」
眠っているのか目を閉じただけか、確かめるため話しかけたはずなのに自然と声が潜む。ぴくりともしないその様子に寝ているようだと判じた。
「……」
何とはなしにその顔を眺めていたくて、ミシルシ様の御前に座り込む。行儀悪く机にもたれかかると丁度、目線の高さが同じになった。
色素の薄いまつ毛が日の光に透けてきらきらと光る。わたしは思わず指先を伸ばし、触れる寸前で手を止めた。
「なんだ、触りたいなら触れば良い」
「……狸寝入り」
「寝ておったわ。起こした張本人が何を言うか、不敬な」
口を開いた途端、先ほどまでの静謐さはどこへやら、いつもの調子で軽やかにミシルシ様が舌を回す。それでも寝ていたというのは本当なのだろう、その目元にはまだ薄らと微睡のあとが見てとれた。
半端に空で留めた手をゆっくりと近づけ、そおっと触れる。
「む、何だ」
「別に。触っていいんでしょう」
触れられて、ゆるりと目を細めるその仕草にあらぬ錯覚を覚えかける。過去このヒトに心奪われ身を滅ぼした者も多いらしいが、きっとこういうところにだろう。
「今日のお夕飯何にしましょうかね」
「まだ昼過ぎだぞ。しかしそうさな、折角だから秋らしいものがいい」
「お芋でも炊きますかね」
最近はサツマイモもお高いが、たまにはいいか。折角だから汁物は茸たっぷりにしようと頭のなかで献立を組み立てる。
「買い物なら早い方がいいぞ。日暮前は雨足の強い夕立になる」
自信満々告げられた今日の予言は、実はお天気アプリがすでに通知していたのだが、知らないふりをしておいた。
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