2.食事
味噌汁を匙で掬い、ミシルシ様の口元に運ぶ。膳の上には一汁三菜、とはさすがに手が回らずそれでも主菜副菜一品ずつは何とか揃えている。もちろん、わたし自身はまだ食事にはありつけていない。
「結や、魚が食べたい」
言われるままに今度は箸を手に取り焼き鮭をほぐす。小さな口は器用にそれを受け止めて咀嚼する。 首から下がない体で飲み下されたそれらがどこに帰るのかは当の本人も知らないらしい。
「馳走になった」
「はい、お粗末様でした」
合わせる手はないので代わりのように目を伏せてミシルシ様の食事が終わる。ちらと見上げた時計の針はいつもよりも遅い時間を指していた。いつもながらわたしの方は、呑気に食事を楽しむ余裕はなさそうだ。
洗い物は帰ってからにするとして、手早く食べ終えられるようご飯の上に生卵を落とす。ざっざと荒くかき混ぜて、出来上がった卵かけご飯を流し込む。
「美味そうだな、それ」
視線と言葉にミシルシ様の方を向くと、えらく熱い視線に迎えられた。
「明日の朝はそれが食べたい」
「……駄目です。こんな下賤なものなりません」
「それがいい!」
手は止めないまま応じると駄々っ子のように頬を膨らませながらそう言われた。実のところ上品下品はどうでもよくて、こんなじゅるじゅるな食べ物どうやったって食べさせ辛いからやめて欲しい。
「隣町のスーパーで五時から卵が特売になる。丁度いい、チャンスというやつだ。卵はこれから値上がりするぞ」
「……まさかそれ今日の分の予言ですか?」
得意げに鼻を鳴らされても困る。卵が安いのはいいことだけれども。毎度ながらメルマガのごときありがたい予言だ。思わず涙がちょちょぎれる。
そんなこと言い合っている場合ではなかった。そろそろ本当に時間がまずい。
「覚えてたら買って帰りますよ」
不敬といういつもの文句を背中で受けて、わたしは今朝も慌ただしく玄関を出た。
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