最後のひとりと生首の予言
幸崎
1.むかしばなし
昔々の話である。
それは大層力のある巫子がいた。巫子はさる家に囲われており、乞われるままに世の、人の、商いのありさまを遠く見透し、果ては未来に起こることすら当ててみせた。そのおかげもあり家はどんどんと栄え、大きくなっていった。
ある時から、家人は不安に苛まれるに至る。この家はあの力でここまでになった。失えばまた衰えることは目に見えている。成長した巫子が、いつかここから逃げおうせたなら。いつか我らを見限ったなら。
不安は恐れを呼び、恐れはやがて蛮行に行き着く。
逃げられてしまうくらいなら、いっそ切り落としてしまえばいい。
走れるように、足を落とした。
縋れぬように、腕を落とした。
――最後にはその首までも、切り落としてしまった。
驚いたのはその後だ。なんと巫子は首を落とされてなお生きていた。慄いた家人は己の行いを悔い改め、その首を御首級様と呼び崇め奉った。
慈悲深いことに御首級様は家人の蛮行を許し、以後も日に一つずつ予言を与えて家は益々栄えたという。
そうそれも今となっては昔々、遠い過去の出来事だ。
時は流れ栄枯盛衰、家業は傾き不幸が続きその家の人間はもはやわたしを残すばかりになった。そんなわたし残されたのは代々伝わるありがたくも物騒極まりないお方がひとり。いや、首だけでもひとりというのだろうか。
「結、今日の晩御飯は何かな」
「はいはい、ミシルシ様さっき食べたでしょう」
「食べとらんわ!年寄り扱いするな、不敬不敬!」
これは最後のひとりになってしまったわたしと、不可思議な生首ミシルシ様の何てことないただの日常の話である。
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