04.南へ

「シェイファー姉様、見て! すごいわ……! どこを見ても、私と同じリザード族だらけ!」


 ペトゥララが子どもらしく大はしゃぎしている。

 やっぱり、同族がいるって嬉しいのね。ララは生まれて初めて同族を見たから、なおさらなのだろうけど。

 私も初めてレイザラッド王国に入った。

 昔は〝枯れた大地〟と呼ばれていたのが嘘のように、緑溢れた活気のある街になっている。


「ようこそ、レイザラッド王国へ」


 先に帰都していたガイアが迎えてくれた。

 会うのは一週間ぶりで、少し気恥ずかし……ん?!


「会いたかった、シェイファー。この一週間、シェイファーなしで息絶えて死ぬのかと思った。元気を充填させてくれ」


 ぎゅうっと抱きしめられて、頬擦りされる。

 嬉しいけれど、恥ずかしい……っ


「シェイファー姉様、その方が姉様の婚約者の王子様?!」

「ええ、そ、んぷっ」


 舌でチロチロと唇を舐めるのはやめてもらっても?!

 リザード族の舌って、少し長いくらいで、人とそんなに変わらないのよね。

 じゃなくて! 子どもララが見てる……!


「わぁ、舌でチロチロしてもいいの?!」


 あああ、子ども特有の無邪気な質問ッ!!


「ああ、親しい間柄なら構わない。でも基本は手や腕だけだ。顔をしていいのは、婚約者か夫婦に限られる」


 そうなの!?


「私、ずっとシェイファー姉様にチロチロしたかったんだ。でも、人がそうしているのを見たことがなくて……私って変なのかと思ってた」

「これはリザード族の習性で、挨拶のようなものだ。変ではないから気に病む必要もない。ここでは気軽にするといい」

「わぁい! じゃあ、チロチロするね!」

「はうん?!」


 ペトゥララに腕をチロチロ、ガイアには頬や唇をチロチロされて……ダブルチロチロ!!

 いつまで続くの、このチロチロプレイ!


「あ、は、もう……っ」

「すまない、シェイファーが可愛すぎて夢中になってしまった」

「私も満足ー! またさせてね、シェイファー姉様!」


 もう、もう、二人とも大好きだから構わないのだけど……!

 体力が持つかしら……?


 私たちはガイアに案内されて、レイザラッド城に入った。

 城と言っても、広くて四角い平家という感じのところだったけれど、中に入るとひんやりして気持ちいい。

 そこでレッド国王陛下にお会いすることになった。でも現れたのは、フランクなおじいちゃんで……

 って、この方が国王陛下なの?!


「はっはっは、驚いたかのう? わしら王族は、普段着飾ったりせずに庶民と同じ服、同じものを食べて生きておる。市民目線の感覚が必要じゃからな。着飾るのは、他国に行く時だけじゃわい」


 平民と同じ服を着ているのは、そういうことだったのね……

 でもこういうところも、とっても楽しくて好きだわ。


「シェイファー、君の話は昔からガイアに聞いとるよ。第一王子になるために頑張っておったからな」

「第一王子になるために……?」


 私は首を傾げた。王子には……なろうとしてなれるものなの?

 疑問が顔に出てしまったのか、レッド陛下はニヤニヤと教えてくれた。


「この国は、世襲ではないのじゃよ。一番強くて優秀なものが第一王子となり、国を治めていく。世襲制なんぞ、良いことはなにもないからの」


 それはきっと、ハルヴァン王国で学んだことなんだろう。

 世襲制も良いところはあるけれど、それはこの国にはそぐわなかった。だからこんな方法を選んだのね。


「ガイアはどうして第一王子になろうと思ったの?」

「それは、シェイファーを娶りたかったからに決まっている」

「え?」

「シェイファーは人族の中でも高貴なほうだとわかっていたからな。人族に認めさせるには、俺自身が釣り合う身分だとわからせるしかなかった」

「ガイア……私のために……?」


 嬉しさが溢れる。

 文も武も、どれだけの努力をしてくれたというのだろう。

 私との、約束のために。

 あの、でも、ちょっと、国王陛下の前で耳をチロチロするのはやめて……!

 こらっ、すかさずララまで私の腕をチロチロするんじゃないの!!


「はっはっは、ラブラブじゃのう! よいよい、仲良きことは美しきかな! シェイファーにはいずれこの国の王妃となる身として、色々と力を貸してもらいたい!」

「は、はい、それはもう……あふっ」

「それじゃあレッド、またな」


 国王陛下をレッド呼び!? しかもチロチロしながら!

 本当にフランクな王国なのね……価値観の違いって面白いわ。


 私はチロチロされながらお礼を言って出てくると、急にガイアは真面目な顔になってチロチロをやめた。

 いえ、元々真面目な顔をしながら舐められてた気がするけれど。


「さて、今から家に帰る前に、寄りたいところがある」

「わぁい、今度はどこー?!」


 無邪気に喜ぶララ。

 私は、ハルヴァンで先に帰るガイアに頼んでいたことがあった。きっとそれだわ。


「見つかったの?」

「ああ」

「なにが、なにがー!?」

「来ればわかるよ」


 ガイアはそう言って、ララの手を繋いであげてくれた。

 ああ、心臓がドキドキする。ララは、一体どんな反応をするのかしら……。

 無邪気にお店だなんだと喜びながら歩くララを見て、私は一歩進むたびに胸が痛くなった。

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